EP42:番外編:永遠の妹②
時平は動揺したが
「前にも言ったように、浄見のことを女性として見れない。妹としか思えない。」
と目を逸らして言うと、浄見は
「私はそれでもかまわないわ。兄さまのそばにいられるなら妹でも、使用人でも、何でもいいの。」
時平はそれを聞き、浄見を妻にすることを考え、思わず赤面した。
激しい動悸に襲われた。
もし、浄見を妻にしたらどうなる?
それは庇護者の立場を放棄することだ。
時平の考える親や兄といった庇護者は絶対的に与えるだけの存在で、子や妹に何も要求しない。
慈愛と保護を絶対的に与える一方向の無償の奉仕である。
しかし、恋人となると、きっと見返りを要求してしまう。
こちらの愛に見合う報酬としての愛を期待し、得られなければ責めてしまうだろう。
時平は今まで浄見に一方的に与えてきた。
それをいまさら覆し、時平が浄見に見返りを求めれば、浄見はきっと裏切られたと思うに違いない。
今までと違うと怒るかもしれない。
そうなってから別れれば、浄見が本当に困ったときに傍にいてやれない。
それに、性的な関係になり時平が浄見の意志に反して傷つけてしまえば、その傷は心の傷となって一生残るだろう。
浄見の自尊心を傷つけ人格さえも歪めてしまうかもしれない。
そんなリスクを冒してまで時平は浄見と恋人になりたいとは思わなかった。
欲望は欲望のまま切り離して別で処理すればいいし、その相手の女性は他にたくさんいる。
時平が傷つけたくない女性はたった一人だった。
浄見が望む『妹としてそばにいる』という選択はどうか?と時平は考えた。
自信がなかった。
浄見を求めず、ずっとそばにいることは、地獄にいるより苦しいだろうと思われた。
それならば離れている方がずっとましだった。
離れて遠くから見守る兄という存在でいることが時平には一番居心地がよかった。
時平は浄見の頬を触り
「私は浄見と一緒にはいられない。無理だ。」
浄見が流す涙を親指で拭っていたが、ふと唇に触れたくなった時平は親指で唇に触れると浄見はその指を唇でくわえた。
浄見の唇の感触に興奮を覚え、時平は思わず浄見の唇に自分の唇を近づけた。
もう少しで唇が触れるという瞬間に我に返った時平は
「ごめん。気持ち悪いことをするところだった。」
と慌てて体ごと離れた。
浄見は胸のドキドキが止まらず困惑した。
『気持ち悪くなんてなかったのにどうして兄さまはそう言うのだろう?』
なぜ他の女性にするように浄見に接してくれないのだろうと思った。
時平は二人の妻の他に宮中でも多くの恋人がいると聞く。
その大勢の女友達の一人になぜ加えてくれないのだろうと浄見は悔しがった。
男女が関係を持つと普通の友人どうしより親密になり、お互いを分かり合え、気持ちがつながると思った。
時平の感情や好みや考えている事、夢、目標、嫌いなもの、怖いもの、憧れてるもの、何でも全てを知りたいと浄見は思った。
どんなことがあっても、時平の何を知っても愛し続ける自信があった。
いい人と悪い人を見分ける子供の頃の直感を信じても、時平は浄見にとってずっと信頼できる頼もしい、いい人であり続けた。
時平にならたとえ殺されても何か理由があるんだろうと許せる気がした。
浄見は時平の顔を触り、人さし指で時平の薄い唇に触れた。
今度は時平が浄見の指を唇でくわえると、浄見が背伸びをして時平の頬に口づけた。
時平の骨ばった顎と肉の薄い頬を唇で感じ、時平の体温と匂いを感じると、浄見は胸が高鳴った。
唇を離し背伸びを戻すと同時に時平が浄見の腰に手を回して引き寄せた。
時平と見つめ合いながら浄見が
「こんなに好きなのに、一緒にいてはダメなの?」
というと時平は
「好きだからこそ、傷つけたくないんだ。」
と答えた。