Ep4:定省大願
<Ep4:定省大願>
887年、光孝天皇は重篤に陥った。
基経は相変わらず妹・高子とは仲が悪く、その子である貞保親王(陽成上皇の弟)を、甥であるにもかかわらず基経は避けていた。
基経の異母妹・藤原淑子は光孝天皇即位前から尚侍を務め、宮廷内に強い影響力を持っていた。
淑子は基経に
「かねてより申しておりました私の猶子・定省は今では優秀な公達ですわ。
先の帝退位の件もありますし・・・。
兄上の役に立つに違いありません。」
基経は定省がそんなにいいとも思わなかったが、何より高子に権力を持たせることには我慢がならなかった。
だから、淑子が推すなら恩を売っておいて淑子の後宮への影響力を利用するほうが得だとも思った。
そして同意した。
同母兄の源是忠を差し置いて弟の定省が皇位を継ぐことには差し障りもあったため、基経以下の群臣の上表による推薦を天皇が受け入れて皇太子に立てる形が取られた。
定省は8月25日に皇族に復帰して親王宣下を受け、翌26日に立太子したが、その日のうちに光孝が崩じたため践祚し、11月17日に即位した。
定省は20歳にして、いよいよ最高権力の座につけたことに大いに満足していた。
これも浄見という掌中の珠が傍にあるおかげだと思った。
なぜなら、定省の大切な、あの稀なる美貌と不思議な予知能力をもつ姉の娘なのだから。