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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
本編(恋愛・史実)

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Ep4:定省大願

 浄見が満四歳になったある日、時平は偶然、定省(さだみ)と来客との会話を耳にした。


(あるじ)はあの子が今どこにいるかを探してくれとあなたにお頼み申すように私を使いに出しました。」


という か細い女性の声の後


「お使いご苦労であったが、さて、姉上の頼みと申されても、私も行方を気になっておるところで・・・。」


時平は浄見を探してる人がいると察しがついたが、定省(さだみ)が姉上というからにはやはり穆子(むつこ)内親王が浄見の母なのだと確信した。


定省(さだみ)が浄見の存在をなぜ隠しているのかはわからなかった。


(あるじ)が申すには、あの夜、『赤子を無事に逃がしてやるから見張りを遠ざけろ』という文を信じて赤子が攫われるのを見逃したが、今となってはせめて一度でも我が子をこの手で抱きしめて死にたいとおっしゃるのです。」


定省(さだみ)は眉をひそめた。


(あるじ)は潔斎中のあの出来事に気が動転して、やすやすと言いなりになったことを悔いておられます。

我が子と一緒に死ねばよかった、今からでも遅くないとおっしゃって・・・」


定省(さだみ)は少し心が動かされたと見えて、


「姉上がそのように はかないことをおっしゃるなら、行方を探してみましょう。しかし期待なさらぬようにと伝えよ。

それと皇太后の手のものが私の周辺を調べておる。姉上も秘密が漏れぬよう細心の注意を払うようにとな。」


といった。


時平は赤子をさらう際、屋敷の警備が手薄だった理由も、光孝天皇が時平ともども赤子を射殺そうとした理由もわかった気がした。


赤子を殺すのは密通・出産の秘密の証拠を消すためで、時平を殺すのは天皇自身の手で赤子を殺したことを娘である穆子(むつこ)内親王に伝わることを恐れ、赤子はさらわれた際に事故にでもあって死んだことにしたかったのだろう。


赤子と一緒に死ぬ者が自分の手のものであってはならないから、一度さらわせたというところか。


定省(さだみ)


「姉上はその他になにか占卜なさらなかったか?」


というと


(あるじ)はもうすぐ娘と会えるからしっかりと探すようにと伝えよと仰いました」


定省(さだみ)は考え込んだ。


「姉上が、娘と会えると考えるのは斎王退下が近いということか?となると、密通が暴露される・・・または、父上がお隠れになる・・・ということか」


と小さくつぶやいた。


時平は定省(さだみ)が占卜をまるで事実のように信じていることに驚き、浄見を隠し育てているのもあるいはそのためかと思った。


もし、穆子(むつこ)内親王の占卜が必中なら定省(さだみ)穆子(むつこ)内親王と親密にしていたのもその予言を得るためではないかと。


 浄見と貝合わせをしながら考え込んでいると


「兄さま!兄さまのばんですよ!まけたほうが、お花をつんでくるんですからね!」


と言われ、


「私が何時(いつ)も摘んでるじゃないか?私が勝ったら浄見が摘んでくれるのかい?」


「浄見のぶんは兄さまがつむのよ!兄さまのぶんを浄見がつんであげるわ!」


と舌足らずで言われた。


「どのみち、私は摘みに行くんだね。じゃあ今日はお庭じゃなく屋敷の裏山に行ってみようか?」


定省(さだみ)に屋敷の外に出ることは禁じられていたが、定省(さだみ)の子に見せかければ少しの外出は許されるだろうと思った。


二人が門に差し掛かると、門番にとがめられた。


「どこへ行く!その姫は誰だ?王さまから何の通達もないが」


「この方は定省(さだみ)様のお子様です。私は子守のもので、少し裏山に花を摘みに行こうと思っております。」


「何も聞いておらぬから駄目だ。特に姫は注意するように言われておる!」


と止められたので時平はあきらめた。


定省(さだみ)は一生浄見を閉じ込めておくのか?という疑念がわいた。


そこまで秘密にするのは、姉の醜聞を封じ込めるためだけなのかそれとも別の思惑があるのか。


「兄さま?うらやまにいけないの?」


「そうだね、今日は無理みたいだから、お庭で花を摘もう。」


人ひとりの存在を永遠に隠すことなどできないだろうに、将来どうするつもりなのか?


浄見が可哀想だと、時平は定省(さだみ)に不信感を持った。



887年、光孝天皇は重篤に陥った。


基経は相変わらず妹・高子とは仲が悪く、その子である貞保親王(陽成上皇の弟)を、甥であるにもかかわらず基経は避けていた。


基経の異母妹・藤原淑子(ふじわらのよしこ)は光孝天皇即位前から尚侍を務め、宮廷内に強い影響力を持っていた。


淑子(よしこ)は基経に


「かねてより申しておりました私の猶子・定省(さだみ)は今では優秀な公達ですわ。

先の帝退位の件もありますし・・・。

兄上の役に立つに違いありません。」


基経は定省(さだみ)がそんなにいいとも思わなかったが、何より高子に権力を持たせることには我慢がならなかった。


だから、淑子(よしこ)が推すなら恩を売っておいて淑子(よしこ)の後宮への影響力を利用するほうが得だとも思った。


そして同意した。


同母兄の源是忠を差し置いて弟の定省(さだみ)が皇位を継ぐことには差し障りもあったため、基経以下の群臣の上表による推薦を天皇が受け入れて皇太子に立てる形が取られた。


定省(さだみ)は8月25日に皇族に復帰して親王宣下を受け、翌26日に立太子したが、その日のうちに光孝が崩じたため践祚し、11月17日に即位した。


定省(さだみ)は二十歳にして、いよいよ最高権力の座につけたことに大いに満足していた。


これも浄見という掌中の珠が傍にあるおかげだと思った。


なぜなら、定省(さだみ)の大切な、あの稀なる美貌と不思議な予知能力をもつ姉の娘なのだから。


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