表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/462

EP38:番外編:廉子女王(やすこじょおう)②

 婚姻が成立し一月も経つと、時平はなまじ女の体を知ったことから、自分の中で欲望の高まりを感じた。

ある夜、自分でも知らぬうちに彼女の屋敷の前まで来ていた。

『誰かに、一人にでも、見つかり(とが)められたら、引き返そう』

と思い屋敷の門をくぐった。

門番は居眠りをしており、物騒だなと思いつつ横を通り過ぎ中に入った。

彼女の寝ている(たい)はもちろん、この屋敷には精通しており、目をつぶっても歩けるほどだった。

『私は何をしているんだ?なぜ誰も止めない?』

時平は心の中で何度もこう問うた。

彼女の寝ている(たい)の遣戸を引き開け中に入った。

『こんなに簡単に入れるなんて、警備はどうなってる?今度注意しなければ・・・』

と考え、もう二度と来るはずではなかったのにと自嘲した。

几帳の向こうにその幼子はおだやかな寝息を立てていた。

時平の鼓動が高まった。

緊張で震える指で几帳の帷をたわめ中に入り、彼女の寝顔を見た。

この世に何の憂いもないような、おだやかな寝顔。

長いまつげがピクピクと震え、う~~んと寝返りを打った。

『こんな真夜中に忍び込んでいることを気づかれたらさすがに嫌われるだろうか?』

と考えながらも美しい寝顔を見つめているとそれだけで幸せな気持ちになった。

先ほどまで身を焦がした激情が嘘のように収まり

『彼女を守らなければ。ここにこうしていてくれるだけで私は幸せなんだ。』

と思った。

そろそろ帰ろうと身を(ひるがえ)すと、袖が何かに引っかかった。

袖を引っ掛かりから外そうと振り返ると浄見が半身をおこし時平の袖をつかんでいた。

「兄さまでしょ?匂いでわかるわ。」

袖を持ったまま、浄見はすわりなおし、目をこすると

「どうして突然来てくださったの?」

と無邪気に時平を見つめた。

時平は血液が沸騰するような気がして眩暈を覚えた。

と同時にこれほど無防備に信頼を寄せてくる彼女を危惧した。

『浄見は自分の立場をわかってないんじゃないか?もっと警戒心を持つべきだ。』

と自分のことを棚に上げて思った。

思わず『男を簡単に近づけてはいけない!もっと警戒して素早く逃げなくちゃだめだ』と説教したくなった。

時平が口を開こうとすると浄見は突然その胸にとびこんだ。

背に腕をまわし抱きしめ、胸に顔を押し当て

「会いたかったわ。ずっと、ずっと、寂しかったのよ。」

時平は全身を硬直させ身動きできなかったが、しばらく抱きしめないうちに浄見の腕が少し長く、頭や肩幅が少し大きくなっていることに気づいた。

自分の心臓の鼓動が激しく打っていることを浄見に悟られたくないと思ったが既に遅かった。

浄見の頭が自分の顎のすぐ下にあり、ぴったりと顔を胸にくっつけているのではどうしても聞こえているだろう。

「浄見、私が怖くないのか?悪党だったらどうする?」

とやっとのことで言うと浄見は

「兄さまになら、殺されたってかまわないわ」

と言い終えるか終えないかのうちに時平は浄見を抱きしめていた。

手のひらに浄見の華奢な肩を感じ、肉の薄い、柔らかい、しかし体温の高い肉体を感じた。

どれくらい抱き合っていたかわからないくらい時間が経った後、時平は体を離し

「こんなに簡単に忍び込めるようじゃ危険だから、警備の人手を増やすことにする。」

と照れ隠しのために取ってつけたように言うと、浄見はきょとんとして

「兄さまはそのためにここに来たの?」

と言ったがにっこり微笑んで

「またいつでもいらしてね!浄見はいつでも待っていますわ!」

と時平を悩殺した。

 帰り道、妖しく照らす満月に向かって時平は

『天よ、罰するならどうか私だけにしてくれ。』

と祈った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ