EP31:番外編:開花前夜①
R15?R18?かもです。
いよいよヤバいですかね?
899年、時平が左大臣になりたてで、浄見とは口づけを交わしたがそれ以上の関係にはならずにいたころ、時平は毎日政務に忙殺されていたが、暇があれば浄見に会いに雷鳴壺を訪れた。
浄見と時平の噂はとっくに後宮全体に知れ渡っていたが、浄見がまだ少女のままであるということもなぜか、同僚の女房にはバレていた。
それはこんなおしゃべりからでもわかることだった。
女房の桜が
「伊予はうらやましいわ。何と言っても一の大臣は大変お上手なんですってね?」
浄見は何のことかわからないが適当に微笑んで
「そうですわねぇ。本当に」
「手で触れるだけで女性がとろけて昇天すると有馬さんが言ってたわ。本当なの?」
浄見は時平に触られて死にそうになったことなどなかったが、そういう意味ではないだろうなとは思いつつも
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫!私はいたって健康よ!」
などとずれた答えをしているからだった。
たまに、時平が浄見の房に訪れて一緒に寝ようというときも、お互い小袖姿だったが浄見から何をするわけにもいかないのでじっと向かい合って座って見つめ合っていると、
「浄見?どうしたの?何かあった?」
と時平が浄見の頬を触って言うと
「何でもないわ。兄さまはお上手だって桜に言われたけど、口づけのこと?」
時平がにっこり微笑んで顔を近づけ
「そうかも」
と言いながら、浄見の口を唇で押し開け、舌で舌をからめとった。
浄見は時平のあったかい、弾力のある舌が、自分の口の中で何かを探し回るようにうごめくのを不思議な感覚で面白がっていたが、時平に口中の全てを吸い尽くされるような引力にはうっとりとした陶酔を感じた。
時平の片方の手は浄見の首のあたりで頭をささえ、口づけしやすい角度に操った。
唇が離れ『ふぅ』とお互い息を吐くと、おでこを合わせてどちらからともなくクスクスと笑った。
「そろそろ、寝ようか」
と時平がいい、二人並んで横になった。
時平が腕を伸ばして浄見が頭を乗せるが、重みは枕にかかるように気を使った。
浄見は横を向いて時平の胸に顔を押し当てて眠るのが好きだった。
焚き染めた香と時平の汗が混じった匂いが浄見が昔から一番安心する匂いだった。
浄見は時平にもっと密着しようと腕を伸ばして胸に抱き着いた。
いつもならそのまま寝てしまうところで、時平が急に体の向きを変え横向きになり二人は向かい合って見つめ合った。
時平が何も言わず、衣の上から手で包むように浄見の胸を触り、浄見は『触られたなぁ』と思っていると、その手が腰を滑って、尻でとまり少し撫でた。
浄見は棚や壁にお尻があたったたときぐらいの感覚しかなく、また『触られたなぁ』ぐらいに思っていた。
「まだだな。」
と時平がつぶやいて仰向けになりそのまま寝ついた。
浄見も時平の胸にしがみついて眠った。
浄見はいつになったら時平ともっと大人の親密な関係になるのかな?と思っていたが、誰にアドバイスを求めたらいいかと考えたとき、椛更衣だ!と思いついた。
椛更衣の髪を梳かしながら
「椛更衣は帝と、その、共寝なさったとき、その・・・大人の関係になったのでしょう?」
椛更衣もまた少し幼い容貌と感性らしく、キョトンとして
「そうねぇ。多分。そう思うわ。」
「他の女房達が言ってるように、気持ちいいだとか、痛いだとか、ありましたか?」
椛更衣はちょっと考えて
「そうねぇ。帝とはお話しているときや、一緒にお菓子を食べてるときは楽しいのですけど、共寝となるとあまり楽しいと思ったことはないわ。」
「どうしてですの?」
「何というか、私には痛いだけで、他の女房達が頬を赤らめて恥じらいつつも自慢げに、いかに素晴らしかったかをしゃべってるのを聞くと全く気持ちが分からないの。伊予はどうなの?」
浄見も少しためらって
「私も、わかりません。というより、痛いことをされたこともないのですもの。」
椛更衣が初めて優越感に浸ったようにふふんと笑って
「まぁ!伊予よりも私の方が男女の秘め事に詳しいだなんて!嬉しいわ!ほほほっ!あの貴族たちが憧れる伊予に勝ったわ!」
と心から嬉しそうに笑った。
浄見も椛更衣の可愛らしい笑顔につられて微笑んだ。
「でも、この頃、帝の御渡りも途絶えがちでしょう?二人で房事のテクニックをお勉強しません?そうでないと殿方が離れてしまうかもしれませんよ!」
と浄見は、『女性力アップ!』の最終目標に向かっての作戦行動に椛更衣を引っ張りこむことに成功した。
浄見が白粉や紅を濃くしたり、艶っぽくなる?香を焚きしめる作戦に失敗したことはご存じの通りだが、もっと手っ取り早く、その道の先輩に話を聞くことにした。
椛更衣が
「やっぱり、雷鳴壺では有馬が一番その道に詳しいと思うわ!女の目から見ても色っぽいもの!」
というので、二人して有馬を呼び出して、
「ぜひ!ご教授ください!」
と頭を下げた。
有馬は、二人の真剣な顔をあきれたように見てため息をつくと、何かを思いついたというふうに、ぽってりとした厚い唇と豊かな白い頬を少しゆがめ、微笑んだかと思うと
「では、口では説明できないので実地で見せて上げますわ。お二人は私の房に几帳を立ててその陰で見ていらして。今夜、ある殿方を呼び出しますから。」
と言った。
二人はドキドキとその夜、その時を几帳の陰に潜んで待った。
サヤサヤと衣擦れの音がして、誰かが有馬の房に入ってくる気配がした。
浄見は覚えのある香の匂いだと感じて、几帳の隙間からのぞいてみると、有馬と相対して座るのは時平だった。