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EP30:番外編:劣情の烙印

R15? R18? でしょうか?

う~~ん。

昼間の暑熱が和らいでも汗で衣が肌にまとわりつき、甘い百合の芳香と()えた土の腐敗臭の入り混じった匂いが鼻をつく、熱のこもったある夏の夜だった。

夜になっても蒸し暑く、衣の中に少しでも風を取り入れようと扇いでも、体温は下がりきらず、時平はぼんやりとした意識のまま浄見のいる対屋(たいのや)を訪れ、取次ぎを頼んだ。

「伊予は先ほど帝に召しだされました」

取次ぎの女房にそう言われた時平はショックのあまり落ち着かず、浄見の房でソワソワと待っていた。

『帝が以前から浄見に食指を動かしていたことは知っていたが、あまりにも突然だな』

と考えていると浄見が帰ってきて

「兄さま?どうなさったの?」

と驚いた顔で無邪気にほほ笑んだ。

時平は何も言わず浄見の袴の下紐を解いた。

「兄さま?」

浄見は怪訝な顔をしたが、時平は素早く袴を脱がせ、転がすように押し倒すと、小袖の下紐も解いた後、白い(あし)を開かせ、無理やり浄見に入った。

「痛いっ」

浄見が苦痛の表情を浮かべるが、何も言わず動き始める。

「兄さま?どうしたの?いつもと違っ・・・」

時平は何も答えず、黙ったまま、動きを速めた。

荒っぽく、乱暴といっていいほど、激しく。

浄見は痛いのと怖いので知らないうちに涙を流していた。


怒りからか?嫉妬からか?

時平は、このまま傷付けたいという欲望にかられた。

壊してしまいたいという衝動。

ボロボロに、引き裂いてしまえば、浄見の中に自分のつけた傷だけが残る気がした。

他人の痕跡を消すためなら傷つけてもかまわない。

他の男の痕跡を掻きだし、自分のものだけを残す。

それを意識してか、無意識のうちにか、激しく、長く、しつこく掻きまわした。


浄見は恐怖から逃れることができず、ずっと痛みだけを感じていたが、時平の必死の、切なげな表情を見た途端、わかった気がした。

この人は傷ついたのだ。

帝に呼び出され、時平との関係を問われたので素直に恋人だと答えた。

それ以上は何もなく返されたのを、時平は帝と何かあったと勘違いしているのだと思った。

嫉妬と焦りで自分を制御できなくなるぐらい、不安になったのだと。

細心の注意をもって壊れ物を扱うような、普段の、繊細なやり方では、抑えられないぐらいの激情が込み上げたのだと。

そう思うと、時平のこわばった表情が愛おしく、恐怖が喜びに、痛みが快感に変わり、浄見は思わず声を漏らした。

理性の制御を失うくらい愛されていると思うと、喜びが満ち、歓喜が溢れ、触れられたすべての部分の感覚が鋭敏になり、快楽を生じた。

時平の触れる全ての部分に、淫らな罪の烙印を押されているようだった。

煽情的な姿態、淫猥な表情、敏感に震える肌、それらを知られることはまるで、肉体に刻印された罪の証しを見られるかのようで恥ずかしく罪悪感を生んだ。

もっと奥へ到達しようとする時平の熱意と強さはそのまま、浄見の快感の強度を増し刺激した。

快楽の波に二人で飲み込まれると、奥に、湿った生温かい痺れと、眩暈と、恍惚を残し、時平が浄見から離れた。


 宴の後にとり残された、放恣(ほうし)な享楽の残滓(ざんし)は、浄見に自堕落な無力感をもたらした。

まるで自分が、性的な快楽に溺れるためだけに存在する娼婦であるかのように感じた。

時平の暴力的な愛撫さえ、快楽の種とし、悦楽の花を咲かせた自分が、何よりも卑しい、下品な、性的に堕落した人間のような気がした。

時平が愛した、何も知らない頃の、純粋・無垢な、子供の自分はどこにもおらず、強姦まがいの愛撫に歓喜を見出すような汚れた自分を時平はまだ愛してくれるのだろうか?と思った。

浄見は恥ずかしさと悲しみのあまり、涙がこぼれ、時平の目を見ることができなかった。

できることなら、少女のころのように、純情な愛情だけで時平にすがりつきたかった。

何も期待しない、罪悪感のない、純粋な好きという感情だけで触れたいと思ったあの頃に戻りたかった。

淫らな罪の烙印だらけの自分の裸体が醜いと思った。

そして、時平に捨てられるという不安が実感を伴った質量をもち、心に(おり)のようにゆっくりと沈んだ。


時平は浄見を傷つけてしまったと思った。

肉体だけではなく、感情も傷つけてしまったと。

あんなに注意して、それだけを避けるために自分に(かせ)をはめ、浄見に近づかないようにしていたのに、何をしているんだと思った。

少女じゃないからといって、犯していいはずはない。

怖がっていたじゃないか?と。

なぜやめられなかったのか?なぜ?と自問しても、本能的にそうするしかなかったとしか答えられない。

浄見の怯えた表情が、甘美な陶酔に変わったように見えたことだけは救いだった。

こんな一回の過ちで、浄見を失うわけにはいかなかった。

あんなにも同じ形の快楽を分け合える相手が他にいるだろうか?

時平の精神も、肉体も、浄見のそれに、まるで作り合わせたかのようにぴったりと合った。

元は一つの体が無理やり引き離され、互いに求めあうようにしむけられたかのように。

時平が浄見の顔を見ようとすると浄見は顔を逸らし、目を合わせようとしない。

頬には涙の跡があり、目は赤い。

時平は

「ごめん。どうかしてた。・・・怒ってる?」

浄見は目を逸らしたまま黙っている。

時平が涙の跡を拭おうと頬に指が触れると、浄見はビクッと身を震わせ目をつぶった。

「二度としない。浄見が嫌がることは二度としないから、許してくれる?」

時平が頬に触れながらやさしく言うと、浄見はうっとりとした気分になった。

そんな自分にうんざりして、

「許さないわ。兄さまを許さない。」

と言った後、またボロボロと涙がこぼれた。

悔しいのか、悲しいのか、自己嫌悪なのか、羞恥なのか、自分でもよくわからない感情だった。

「ごめん。・・・ごめん。」

時平が涙をぬぐい、何度も何度もあやまった。

浄見が声を上げて泣き出すと、顔を胸に引き寄せ、髪をなでた。

泣き止むまでずっと、幼子(おさなご)をあやすように、やさしく、繰り返し髪をなでた。

浄見は感情を涙とともに吐き出してしまうと、気分が落ち着いた。

そして、時平を素直に好きと思えたあの頃のように、疲れて糸が切れた人形のような眠りに、久しぶりに落ちることができた。


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