表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
296/505

EP296:竹丸と伊予の事件日記「誘惑の濁世(ゆうわくのじょくせ)」 その2

*****【竹丸の日記】*****


堀河邸の侍所(さむらいどころ)でゴロゴロしてると影男(かげお)が文使いにやってきた。

受け取った文を、主殿で書を読んでいた若殿(わかとの)に渡すと、すぐに開いて読み

「やっぱり浄見もそう思うか。」


呟いたあと、片頬(かたほほ)に笑みを浮かべた。


「なぜ宇多帝の姫にその和歌(うた)の解釈を訊ねたんですか?」


あっ!

しまった!

盗み読みしたのがバレバレっ!

まいっか、いつものことだし。


若殿(わかとの)は文箱の中から一枚の文を取り出し

「ん・・・?ああ、それはな、これを読んでみろ」


受け取った文には


『次の三首は、先日入手した、ある人物の日記に記されていた和歌(うた)だ。

これらの和歌(うた)が、一体何を意味するか分かるか?

同様の和歌(うた)が、まだ他にもその日記には記されていた。

これらの秘密を、世間に公表してよいものかどうかの、判断は大納言に任せる。


(はる)()の いともかしこき (ひかり)なる しのぶもぢずり みちのくにあり 元慶(がんぎょう)八年

(春の日の(おそ)れ多い光のような、「しのぶもじずり」という乱れ模様の()(ごろも)は、陸奥にある。)


(つね)もなき (なつ)草葉(くさば)に ()(ひと)を (いのち)とたのむ (せみ)のはかなさ 貞観(じょうがん)十七年

(常にあるとも限らない夏の草葉で行き交う人にすがる蝉は儚いものよ。)


宿(やど)りせし 花橘(はなたちばな)も ()れはてん (かれ)ほととぎす (こえ)()えぬらむ 仁和(にんな)四年

(ほととぎすが宿っていた花橘が枯れてしまったので、ほととぎすの声が途絶えてしまったんだろう。)


泉丸(せんまる)


はっ!!

として、またイヤ~~~な汗をかいた。


扇で自分をパタパタと扇ぎながら

「また泉丸(せんまる)ですかぁ~~?ウザ(がら)みされてますよねぇこのごろぉ~~!ってゆーか『ある人物の日記』って何ですか?なぜ若殿(わかとの)が公表するかの判断を任されるんですか?」


若殿(わかとの)は言うか言うまいかを躊躇(ためら)ったあげく、低い声で

「お前が付き合っていた下女の(わらび)に先日、(ひま)を出しただろ?そのあと、この堀河邸から父上の日記が紛失したんだ。」


はぁ?

恋人と称して私の雑舎(ぞうしゃ)の身の回りを引っかきまわし、刀子(とうす)を盗んで若殿(わかとの)を呪詛の実行犯に仕立て上げようとした奴!!

おそらく泉丸(せんまる)の手先!!


思い出してムカムカしながら

「あいつが大殿(おおとの)藤原基経(ふじわらもとつね))の日記を盗んで逃げたんですか??!!」


若殿(わかとの)が深刻な顔で(うなず)き、

「私も泉丸(せんまる)からこの文を受け取るまで気づかなかった。もしやと思い調べると父上が死ぬ直前まで、こまめに書き付けていた日記が紛失してたんだ。」


怒り心頭で

「早く(わらび)を探し出して、検非違使(けびいし)庁に突き出しましょうっ!!そうですよっ!!刀子(とうす)を盗んだんだからなぜ突き出さず、解雇(くび)にしただけだったんですかっ!!??」


肩をすくめ

(わらび)刀子(とうす)を盗んだことを認めなかったし、お前に疑われて悲しいから一刻も早く堀河邸(ここ)を去りたいと言われたんだ。泉丸(せんまる)の手先なら捕えて尋問してもよかったんだが、私が源昇(みなもとのぼる)を呪詛したという噂も立ち消えたから、深く追求する必要はないと思ったんだ。」


はぁ?

あの女子(おなご)無罪放免(むざいほうめん)っ?

「絶~~~対っ、刀子(とうす)を盗むために私を(だま)して近づいたんですっ!!私を好きだという素振りは微塵(みじん)もありませんでしたっ!それに若殿(わかとの)の呪詛の疑いが、なぜ急に晴れたか知ってるんですか?私が影男(かげお)から聞いたところによると、宇多帝の姫が四郎様(忠平(ただひら))から毛抜祁(けぬき)僧都の呪詛記録帳を手に入れ、それを帝がご覧になり、口添えしてくれたからだそうですよっ!!!」


若殿(わかとの)が真顔でピタリと虚空(こくう)の一点を見つめ黙り込んだ。


あっ?

地雷(じらい)()んだ?

もしかして知らなかったの?


一瞬、迷ったが、怒りに任せ最後まで言わずにはおれず、引き続き口を滑らせる。

「上皇の皇女(ひめ)を正室にしている四郎様が、泉丸(せんまる)側の人間であるあの四郎様が、(みずか)ら進んで若殿(わかとの)を助けようとしますか?宇多帝の姫がどんな手を使って冤罪(えんざい)の証拠を手に入れたか、想像に(かた)くありませんよね?!!」


ギュッ!と眉根を寄せて、青ざめた、泣き出しそうな表情で

「・・・・もし、そうなら、本当に浄見が、四郎と、何かあったというなら・・・・いっそ、いっそ、その方がいい。」


えぇっ??!!!

そーなの?

そんなもん?

それとも本当に別れる気になったの?

青天の霹靂(へきれき)っっ!!


「どーしてですかっ!!もう姫のことを諦めたんですかっ??!!」

(その3へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ