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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
294/505

EP294:竹丸と伊予の事件日記「物神の刀子(ぶっしんのとうす)」 その8

*****【竹丸の日記】*****


 この頃よくそうするように、大納言邸の主殿で若殿(わかとの)が明け方まで書を読み、熱心に何かを書き付けながら夜を過ごしていると、御簾の外から声がした。

私は若殿(わかとの)のそばで寝っ転がりながら面白話がたくさんのってる『草子(ぞうし)』を読みふけってた。

一応、若殿(わかとの)に頼まれごとをされればすぐに動けるように待機中ということで。


御簾の外から遠慮がちな低い声がした。


「大納言?そこにいるか?私だ。泉丸(せんまる)だ。話がある。」


チッ!

ちょっとイラっとしながらも

「はぁ~~~い!若殿(わかとの)は今仕事中です。」


御簾から顔を出し応対すると、いつみても神々しい泉丸(せんまる)の姿があった。

美人だけど、腹黒いんだよなぁ~~~!

宇多帝の姫を誘拐したし、私がまだ幼い時に、私を利用したことがあるし。

絶~~~対っ信用してはいけないっ!!


自分に言い聞かせるけど、思わず、(はす)のような長い睫毛、後れ毛や耳飾り、口角の上がった薄紅色の唇、高い形のいい鼻、(あで)やかな白い肌にウットリと見とれてしまった。


そして、若殿(わかとの)に恋してる。

絶対に気を許してはいけないっ!!

若殿(わかとの)と宇多帝の姫を破局させるためならどんなに汚い手でも使う意思は明らか。


見とれるのをやめ、睨みつけながら

「面会ですか?予約してますか?」


泉丸(せんまる)は肩をすくめ

「えらく他人行儀だな!怒っているのか?竹丸?なぜ?」


暗闇のなか、(もや)がかかった三日月を背景に、まるで月から降臨した女神のように(あで)やかな微笑みを浮かべる。


ジメッと睨みつけながら黙ってると、後ろから

「竹丸!泉丸(せんまる)を入れてくれっ!!お前は下がっていいぞ!」


若殿(わかとの)が声を上げ、泉丸(せんまる)が御簾を押して入り、代わりに私が出ていった。


チェッ!!

追い払われたっ!!

ふくれっ面で立ち去ろうとしたけど、廊下の端まで来てふと立ち止まって、忍び足で引き返し、立ち聞きすることにした。


御簾の中から小さな声でボソボソと話すのが聞こえる。

もうちょっと声量(ボリューム)上げてくれないかな?

ジリジリしながらも聞き耳を立てる。


若殿(わかとの)

「何の用だ?」


「噂に困ってるんじゃないかと思ってね。助けてやる方法があるんだ。」


ピリッとした声で

「お前が悪い噂を流し、お前が助けてくれる?はっ!ありがたいなっ!!」

鼻で笑った。


「助けは必要ないのか?本当に?」


若殿(わかとの)が一段と低い声で

「何があろうとお前に泣きつくつもりはない。竹丸までだましやがってっ!呪物と似た刀子(とうす)を与え喜ばせておいて、(わらび)をそそのかして盗ませ、呪詛の噂をばら撒くとはなっ!手段を選ばないやつらは本当に卑怯だな!人情だろうが信頼だろうが何でも利用する!(わらび)を竹丸に近づけたのも作戦のうちだろう?」


はぁ???!!

やっぱり(わらび)が私を好きだなんて嘘だったの?!!

まぁいいけど。

こっちもそんなに好きじゃないし・・・・ってあいつは刀子(とうす)を盗むために近づいたのかっ!!

泉丸(せんまる)のヤツ~~~~っ!!!

友情の証しだなんて言っておいてっ!!!

どこまで私を馬鹿にするんだっ!!


今度は本気で腹が立ち、ムカムカが止まらなかった。

殴ってやりたいっ!!


しばらくの沈黙の後、若殿(わかとの)の鋭い怒鳴り声で

「何をするっ!!やめろっ!!」


「あれ以来、浄見とご無沙汰なんだろ?相手をしてやろうと思っただけだ。罪悪感?女子(おなご)なんて見るのも嫌になったんじゃないか?」


泉丸(せんまる)がこちらに近づいてくる気配がし

「まぁいい。いつでも声をかけてくれればお相手してやる。じゃあな!」


ヤバいっ!!

急いで廊下を小走りし、その場を離れたけど、後姿は見られたっぽい!


泉丸(せんまる)が立ち去ったのを確認し、主殿に戻った。

若殿(わかとの)は何事もなかったかのように書に没頭してる。


ヘナヘナと座りこみ、ハァ~~~とため息をつき、

「やっぱりあの刀子(とうす)は友情の証しじゃなかったんですね。若殿(わかとの)をハメる道具だったんですね。また利用されてしまいましたぁ~~~。」


若殿(わかとの)はボソッと

物神(ぶっしん)は心を持たない『物』を神と崇める事だが、お前は冷たい美という『偶像』を崇拝せずにはいられないんだな」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

物神(ぶっしん)とは『呪力があるとして崇拝の対象とされる物』という意味だそうです。

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