EP293:竹丸と伊予の事件日記「物神の刀子(ぶっしんのとうす)」 その7
*****【伊予の事件簿】*****
硬くて弾力のある舌が、口中を動き回る。
私の舌を吸い取り、奪おうとする。
その頃には頭を両手でつかまれ、口づけしやすいように操られていた。
兄さまとしてる!
言い聞かせながら舌を絡め、口づけに応えた。
忠平様の呼吸が荒くなり、ぼんやりとした目付きで唇を離した。
「今日は優しいね?もっとしてもいい?」
はぁ?!!
もっと?!!
って、何を?
口づけを?
それとも・・・・!
何も言えず焦ってるうちに、私の水干の襟紐と帯をとき、衣を剥がし始めた。
袴の紐をほどこうとしながら
「兄上とずっと会ってないんだろ?私を兄上だと思えばいい。身代わりでいいから。」
「ちょっ!ちょっと待って!!」
紐をほどく手を握って止め、
「その、兄さまとも最後まではしてないの!途中までというか、その・・・・、だから、無理よっ!!」
驚いたように目を丸くし
「何だって?あんなに伊予に執心なのに?何を待ってるんだ?伊予の心構えができるのを?全く!信じられないな!」
やめてくれると思ったのに手を止めず、袴の紐をほどき、下ろし、その下の小袖の紐をほどく。
「ダメって!いってるのに!」
叫びながらも、他の男性とすればどうなるんだろう?という好奇心が頭の片隅にあった。
忠平様が息を弾ませながら、手を動かし
「見るだけ。触るだけ。最後まではしないと約束する!」
グイッ!
小袖の衿を掴んではだけ、素肌の胸を露にされた。
恥ずかしくて呼吸が浅く速くなる。
向かい合って座り、ジッと見つめられる。
呼吸にあわせて
自分の胸が波打つ。
スッ!
無造作に乳房を手で覆い、先端を摘ままれた。
「痛っ!!」
「ごめんっ!!」
見るだけって言ったのに、胸に口づけられた。
違うっ!!
兄さまじゃないっ!
一度考えてしまうと、違うところがどんどん気になって、嫌な気持ちになった。
体の芯からスッと熱が冷めていく感覚があった。
胸の間に舌を這わせ
指で先端を摘まむ。
もう片方の手が伸びて、袴のなかに潜り込み、敏感な部分に指が触れた。
肌を動き回る異物を
払いのけたい感覚。
やめてっ!!
ずっと我慢してたのが、爆発しそうになった。
ピタリと
忠平様の指の動きが止まり、
「ダメだ。いつもこうなの?全然、その、・・・・濡れないの?」
ポロポロ涙がこぼれた。
バカみたい!
試すまで気がつかないなんて!
「違うの。ごめんなさい。無理なの。兄さま以外の人とは、無理なの、かも」
あの人でなければ
気持ちよくならない。
芯に響き、奥が潤うことはない。
私の肉体は
快感も興奮も痛みすら
感じる機能を失ったよう。
私は、どこか不完全なのかもしれない。
あの人を失えば、
甘美な、眩暈がするような官能を
二度と味わうことはできないのかもしれない。
泣きじゃくる私を慰めるように胸に抱きしめた。
「兄上の時は違うんだな。」
ウンと頷くと
「わかりやすい女子だな。仕方ないな。伊予に惚れられるまではできないってことか」
涙が止まるまで髪を撫でてくれた。
抱きしめられる、とかはまだ平気。
なんだけど・・・・。
結局、その後、兄さまの冤罪の証拠である呪詛記録帳を忠平様は、快く渡してくれた。
宮中へ戻り、それをお見せして椛更衣から帝にお伝えしていただき、帝が公卿達との雑談でほんの少し言及なさっただけで、『兄さまが呪詛の張本人』という噂はピタリとおさまった。
帝の威力は絶大っ!!
相変わらず、兄さまが会いに来てくれることはなく、逢瀬は途絶えたまま。
私はこの先、一体どうすればいいの?
誰でもいいから教えてっっっ!!
(その8へつづく)