EP291:竹丸と伊予の事件日記「物神の刀子(ぶっしんのとうす)」 その5
*****【伊予の事件簿】*****
ズキッ!
あり得る・・・の?
冷や汗をかく。
竹丸が何かを思い出し、拗ねたように頬を膨らませプンとして
「私だって、友情の証しに泉丸から刀子をもらったんです!柄に長方形の透かしが入ってて、柄と刀身が曲がってる珍しいものです!東国へ行ったときにあっちの職人に作らせたと言ってました。二週間ほど前のことです!」
えっ??!!
それって、源昇様の呪物と同じもの???
「ねぇ!刃に文字が書かれてなかった?『呪詛 竹丸』とかの?特徴が呪詛に使われた刀子とそっくりなの!」
最大怪訝な顔で
「はぁ?何言ってるんですかっ!!そんなワケないでしょっ!!泉丸は親友数人にだけ贈る、大切なものだと言ったんですよっ!!呪詛するわけないでしょっ!!」
最後は怒りを込めて吐き捨てた。
親友数人に贈った?のならその中の一人が呪詛に使ったってこと?
念のため
「まだ持ってるんでしょうね?確認して文で知らせてねっ!!」
イライラした声で
「わかりましたよっ!!源昇様の呪詛に使われたものだと疑ってるんでしょっ?ちゃんと確認しますっ!全く!」
って言ってたのに、別れた後、内裏に戻って、その日の夜に受け取った文には
『刀子を紛失してしまいました!手箱にしまってたんですが、そこからなくなってるんです!信じられませんっ!! 竹丸』
って書いてあった。
二人だけの会話のハズがどこからか漏れたのか、噂に尾ひれがつき
『大納言の従者の刀子が源昇様を呪詛した刀子らしい。全く同じものだったと判明した。やっぱり大納言が呪詛した犯人だった!』
って内裏中で囁かれた。
兄さまが出仕を控えてるのも、疑いを加速し、ついには帝まで
「時平は本当に源昇を呪詛したのだろうか?なぜ反論しないんだろう?」
椛更衣にお尋ねになられた。
私はいてもたってもいられなくなって、何とかしなきゃ!って焦りに焦って、忠平様に文を書いて『何とかならない?』って相談した。
その返事には
『方法が無いことも無い。兄上の冤罪を晴らす証拠となりうるかもしれない物を持っている。確かめたいことがあるから、それが済んだら会おう。 忠平』
はぁ?
何この曖昧な文言は?
イラっとしたけど、他に選択肢もないし、
『わかった!待ってる。』
という文を送ると、数日後
『確認できた。すぐ来てくれて構わない。 忠平』
という文がきたので、枇杷屋敷に行くことにした。
水干・括り袴を着て、髪を一つに束ねた少年風侍従姿で。
一年中、緑の葉を茂らせる枇杷の木は、秋に限らず枯れ葉を落とす。
枯れ葉が落ちているのを見かけても、すぐに掃除されるのか、下に溜まってるのを見たことは無い。
忠平様の枇杷屋敷は、いつも隅々まで行き届いた気配りで心地よく管理されていた。
東門から入り、侍所で挨拶すると、管理の雑色が主殿へ通してくれた。
主殿の御簾を押して入ると、文机に向かって、パラパラと何かの帳面をめくって眺めてる忠平様の姿があった。
いつもの上機嫌じゃなく、難しそうにしかめた顔をチラッと上げ、
「あぁ、来たか。兄上の源昇呪詛の冤罪を晴らしたいんだよな?準備はできている。私が確認したところ、確かに冤罪と言えそうだ。」
ホッとして思わず『やったーーっ!!』とその場で飛び上がりそうになった。
「よかったーーーっっ!!ありがとっ!!宮中でその証拠を帝にお見せすれば公卿達の誤解も解けるかも!!で、どんな証拠?呪詛してない証拠って何?」
文机の前に対面するように座り、帳面を覗き込んだ。
顔を上げ、目が合うと急に頬を赤らめ、照れたように
「こ、これは、毛抜祁僧都の呪詛記録帳を寺の稚児が『呪物の競売』に出品したものだ。先日、伊予が誘拐された会場で、私が落札したんだよ。そもそもこれを目当てにあそこへ出かけたんだ。」
「へえ~~~!?稚児が盗んだの?バレたら寺に居づらくないの?」
(その6へつづく)