EP290:竹丸と伊予の事件日記「物神の刀子(ぶっしんのとうす)」 その4
*****【伊予の事件簿】*****
竹丸はめんどくさそうに欠伸しながら
「別に、変わったところはないですよ~~!あぁ、でも、夜は大納言邸の主殿に籠り切りで、記録を国衙(地方政務を執った役所)から取り寄せて勅旨田の実効性について確認したり、有力貴族の荘園収入を調査したり、税収について徹底的に調べているようでした。」
私の顔をチラッと見て、ふっくらした頬をニヤッとゆがめ
「誰かさんを思い出したくないみたいで、仕事に没頭してるようです。例の『病気』?みたいなもんですよね~~!自分を責めてるんです。姫と付き合う前はずっとあんな感じでした。」
はぁ?
私を忘れたいの?
そんなに嫌いになったの?
ズキズキと胸が痛んだ。
気を取り直して
「そう!聞きたいことっていうのは、兄さまが源昇様を呪詛したっていう噂は本当??!!『呪詛』って書いてある刀子が出てきたって!」
竹丸が煩わしそうに眉をひそめ
「あぁ、そのことですか。それはありませんね~~。私の知る限り、従者や使用人の誰も、『刀子に呪いをかけて源昇様の屋敷に忍ばせろ』なんて命じられてません。若殿が呪いなんてそんな不確かで陰湿な嫌がらせをしないのは知ってるでしょ?身分や官職から追い落とす気なら作戦を立てて現実的に破滅させると思いますよぉ~~!」
・・・・まぁそうね。
『確実に破滅させる作戦を練る』が呪詛より立派だとは言えないけど。
フム!と顎に指を当て
「じゃあやっぱり誰かの企み?兄さまの評判を悪くしようとして?対立する公卿たちの企み?」
肩をすくめ
「確かに、若殿がやろうとしてる、大寺社や貴族の私有財産である荘園を縮小整理して、朝廷への税収を増やし、財政健全化を図ろうなんてことは、富裕貴族からすれば『何考えてんの?荘園のうまみを一番味わってるのはあなたでしょ?収入減るよ?バカじゃないの?』って反感を買うだけですし、敵は確実に増えてますよねぇ~~。」
のんきに呟く。
兄さまはきっと一族や民全体の将来を見据えてるんだと思うけど。
自腹だけを肥やしても、長続きしないって。
貴族の私腹を肥やす米があるなら、民に還元するほうが有益だって。
「わかったわ!兄さまは呪詛には無関係ね?で、あなたって最近、恋人ができたって聞いたけど、どんな人?」
気になってること順位第二位の質問をする。
竹丸は照れもせず、真顔で、なんなら少し凹んだ表情で
「ええと、大納言邸の下働きの女子です。名は蕨と言います。何だか知らないんですけど、『恋人にして!』って最近猛アタックしてきたんです。別に好きでも何でもないんですけどぉ~~、どうせ私なんて片想いしかできない、モテない男なんだって凹んでたもんですから、まぁいいかって試しに付き合ってみることにしたんです。」
あっ!!
『呪物の競売』で泉丸と兄さまの会話を盗み聞きして失恋?
泉丸が『時平さま推し!』なのを聞いちゃったのね?
納得して同情。
でも、と取り繕うべく
「身の回りの世話までしてくれるって、よっぽど好かれてるんでしょ?よかったじゃないっ!!私なんて兄さまがもう一度付き合ってくれるかどうかも怪しいんだから!」
竹丸が目を細め不機嫌そうに
「どうします?もし若殿が泉丸と付き合ったりしたら?もう女性はイヤだ!とか言って男色に走ったら!」
(その5へつづく)