EP289:竹丸と伊予の事件日記「物神の刀子(ぶっしんのとうす)」 その3
*****【伊予の事件簿】*****
源昇様は振り返って、私の存在に今気づいたかのように少し驚き
「何だ。伊予か?随分大人っぽくなったな。ああ、そこで徹底的に屋敷内を捜索すると、出てきたんだよ!呪物が!一体何だったと思う?お前にわかるかな?」
小さい目をギョロッとさせて、たっぷり間を取り、私の好奇心が最大になるのをまってる。
はぁ~~~~~~~。
ため息をつく。
もうウンザリ!!
椛更衣が入内前、礼儀作法を教わるために一時期、源昇様の屋敷で過ごしたことがあったけど、その時から苦々しく思ってたのよねぇ。
源昇様の『周囲の関心を最大限自分に惹きつけたい!』『いつも話題の中心でありたい!』という意図が見え見えの芝居がかった『溜め』の演出。
椛更衣のお付きの女房として宮中に一緒に上がるために、宮中での振舞、一般教養の教師の女房を手配してくれたり、屋敷に住まわせてくれたりお世話になったから悪しざまには言いたくないんだけど。
発言する言葉にいちいち重みがあり、周囲の人が注目して話を聞いてくれるような『重要人物』でありたい!と思ってらっしゃるのはわかるけど、わざとらしい質問形式で人の気を引こうとするのはやめてほしい!
面倒くさいっ!!
一応、う~~~んと考えたふりをした後
「お札?とかですか?」
源昇様は大げさに首を横に振り
「そんなにありふれたものじゃない!刀子だよ刃渡り一尺(30cm)ぐらいのね。私が寝ている塗籠の枕元に置いてある手箱の中に何者かが入れたんだよ!しかも、柄に長方形の透かしがあり、柄と刀身が曲がった、変わった形の刀子をね。」
疑問が湧き、首をかしげ
「でも、なぜそれが呪物だと分かったんですか?誰かが、その、殿さまと、一緒に寝ておられる方が、護身用に手箱にお入れになったとかじゃないんですか?」
源昇様が驚いたように目を丸くし
「伊予が!あの子供っぽかった伊予が、男女の秘め事の何たるかを知っておるのか?はははっ!大人になったのぅ!だが生憎塗籠に引き入れるような女子は今はおらん。呪物だと分かったのはな、白木製の鞘から刀身を引き抜くと、刃に『源昇呪詛』と書いてあったからだ。」
へぇ~~~!!
そりゃぁ呪物?だよねぇ!
そこまでちゃんと書いてあるなら!!
「でも、恨まれる心当たりがおありなんですか?仲のお悪い御同僚の方々とか?虐めた使用人とか?それとも・・・・夜離れて打ち捨てた女子とか?」
あっ!!
チクチク胸が痛いっ!
誰かさんを思い出すっ!!
源昇様は急に深刻な顔つきになり扇を広げ口元を隠し考え込んだ。
「まさか・・・あのことで、あのお方が、私をお恨みになっている・・・・?」
誰っ??
気になって仕方ない!
「お心当たりがあるんですね?誰ですの?」
顔をしかめ、口をへの字に曲げ
「いや、おそらくあの方ではない。思い過ごしだ。陰陽師が『刀子を呪具とするとは、縁を切りたがっている者による呪詛でしょう』などと言うからだ。けしからん!」
不機嫌そうにつぶやいた。
その日は、それ以上のことを言わず源昇様は立ち去った。
数日後、雷鳴壺にお使いにきた茶々から
「ねぇ!伊予!聞いた?参議・源昇様が呪詛されたって話?殿上の間に詰める公卿たちによると、どうやら、大納言様が呪詛なさったんじゃないかって、もっぱらの噂なのっ!!」
はぁ~~~~????!!!!!
なぜ兄さまがっっ?
「どういう経緯でそうなったの?何があったの?」
茶々は扁桃形の目をパチクリさせ
「ええと、一月ほど前、朝政で大納言様が提案なされた政策?を通すときの採決の際に、源昇様が裏切って、権大納言・菅原道真様側についたのを、大納言様が恨んでるらしいわ!源昇様は大納言様のご側室の父君で舅にあたる方でしょ?大納言様は当然味方してくれると思ったのに、裏切られたから恨んだというお話よっ!!」
えぇ~~~~っ???
確かに源昇様は年子様の父君だけど、兄さまがそんなことで恨むかしら?
政治について話したことないけど、日ごろから誰かと徒党を組むのは好きじゃないから『裏切られた!恨んでやる!呪詛してやる!』とかはないと思うけど。
これは真偽をちゃ~~~んと竹丸に確かめなきゃっっ!!
急いで、竹丸に文を書いて呼び出し、買い物と称して内裏を出て、陽明門で待ち合わせた。
大宮大路をブラブラ歩きながら話をする。
「兄さまは最近どんな様子?」
(その4へつづく)