EP287:竹丸と伊予の事件日記「物神の刀子(ぶっしんのとうす)」 その1
【あらすじ:ご側室の父君を時平様が呪詛したという噂が、宮中でまことしやかにささやかれている。政治の権力分布図を塗り替えようとする企みだけど、冤罪を晴らすのは簡単じゃない!時平様に拒絶された私は、今後一生、不完全な女子として生きていくの?私は今日も、時平様と自分のために、何とかしようと悪あがきする!】
*****【伊予の事件簿】*****
今は、899年、時の帝は醍醐天皇。
私・浄見と『兄さま』こと大納言・藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。
私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。
何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。
*****【竹丸の日記】*****
私の名前は竹丸。
歳は十九になったばかりだ。
平安の現在、醍醐天皇の御代、政権首位の座につく一の大臣と言えばこの人!大納言・藤原時平様に仕える侍従である。
私の主の若殿・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中・・・・だったのは過去のこと。
現在は十六歳の妙齢の女性に成長した宇多帝の姫とイイ感じになったと思ったのも束の間、宇多帝の姫が『複数の恋人を持つ』宣言をしたり、時平様のご正室が自殺未遂したり、姫が他の男と深い仲になったと勘違いしたり、まぁ大変!
それに加えて、一番の弱点、『幼子のころから宇多帝の姫を愛し続けていること』が弟君にも敵(泉丸)にもバレたから凹み中。
逢いたくても、罪悪感で逢えない状況では仕事に没頭するしかない!
*****【伊予の事件簿】*****
その日以来、兄さまとの逢瀬はぱったり途絶えた。
帝のお伴に雷鳴壺へ椛更衣を訪ねてきても、私に話しかけもせず、目も合わせずに出ていく。
文を出しても返してくれる頻度が、二回に一回から三回に一回、五回に一回と段々少なくなり、ついには文を返してくれなくなった。
はぁ?
どーゆーつもり?
『私を妻にする!』って言ったのに?!!!
さんざん弄んで捨てるつもり??!!
やっぱり噂通りの好色な色好みの遊び人だったの??!!!
『牛車の女子事件』以降、表向きはずっと別れたままってことになってるから、茶々や椛更衣には今更『本気で捨てられた!』とか泣きつけないし、愚痴れない。
唯一の望みは
「我慢しよう。もう少し浄見が大人になるまで」
って言ってたこと。
時間が経てばまた付き合えるってこと?
ってゆーかいつまで待てばいいの?
それまでに他に好きな人ができたらどーするの?
心配にならないの?
考えても仕方がないことをグルグル考え続けながら、夜、自分の房で、眠れず何度も寝返りを打つ。
最後に兄さまと一緒に過ごした時のことを思い出した。
はだけた衣からのぞく、
張りのある、盛り上がった、胸。
汗ばんだ肌と肌が重なり、密着し、吸いつく。
ピンと硬くなった、胸の先を、指ではじかれる。
舌で触れ、唇で包み、吸われる。
快感に突き上げられ
思わず鼻に抜けるような声が漏れる。
下腹部の敏感な部分に長い指を差し込まれ、
クチュクチュ
音をたてられる。
自分ではどうにもならない、
快感の明かし
秘めた悦楽の発露
溢れだした蜜で
恥ずかしいほどに
衣がぐっしょりと濡れていく
指の動きも、荒い息遣いも、
汗ばんだ肌も
真剣な表情も
思い出すだけで、愛おしくなり、
身体の奥が疼き、熱く、体液が滲みでた。
淫らな想像をしてることに
恥ずかしくなり
自己嫌悪に陥る。
それでも、兄さまに会いたくなった。
魔力をおびたその指が導く、恍惚
花開く悦楽の絶頂が
欲しくなった。
他の男性としても同じこと?
誰とでもこうなるの?
兄さましか経験がない私には、それ以上のことは分からなかった。
ただ、このまま、この淫らな気持ちに、発作的に襲われることが怖かった。
他の女子にも、こんなにも甘美な興奮を与えてると思うと、兄さまのことが憎らしくなった。
愛しさと、嫉妬と、淫らな欲求。
そのどれもが抑えきれないほど膨らみ、容易く破裂しそうな切迫感があった。
(その2へつづく)