EP283:竹丸と伊予の事件日記「断絶の夢路(だんぜつのゆめじ)」 その4
*****【伊予の事件簿】*****
目を覚まし、ゆっくりと体を起こし、少し首を動かし見回した。
ここはどこ?
薄暗い土壁に囲まれた場所で、人が入れるぐらい大きい長櫃、壺や皿などの骨とう品?の黒っぽい影?、衣装箱や葛籠が重ねて置いてある。
塗籠と思われる場所だった。
確か、東市で買い物してると誰かに後ろから腕を回され首を絞められ、頭が真っ白になったのよね?
気を失ったんだと思う。
その後、誘拐犯にここへ運ばれたんだわ!
縦筋に光が入ってきてる。
あっ!隙間がある!あそこが妻戸ね?
状況に慣れてきて、キョロキョロと周囲を見回すと、人ひとり分ぐらい離れた場所に、胡坐をかいた狩衣姿の男が座ってるのに気づいた。
きゃっ!!
ビックリしすぎると喉が塞がれたみたいになって音が出ず、口を動かし喉を震わせただけだった。
ゴクッ!!
息をのみ男をジッと見つめ様子を窺う。
「伊予、大丈夫。私だよ。」
硬くて低い、艶のある声。
忠平様?
ホッとしそうになったけど、警戒しながら
「もしかしてあなたが誘拐してここへ連れてきたの?」
ふ~~~、とため息が聞こえ、苛立たしそうに
「まだ信用されてないのか。ガッカリだよ。せっかく助けてやったのに。」
「どーゆーこと?じゃあ誰が私を誘拐したの?ここはどこ?今すぐ逃げましょうっ!」
薄暗くて表情まではハッキリ見えないけど、忠平様が首を横に振り
「まだだ。表にまだ人が多い。夜が更けるのを待って、人気がなくなったらここを離れよう。私がいるから誰が来ても大丈夫。守ってあげるよ」
はぁ?
何?
人が多いって何よっ?
「ここはどこ?」
「ここは香泉さまの屋敷の北の対の塗籠だ。今、主殿では『呪物の競売』が行われている。」
「香泉さま?泉丸のこと?やっぱりっ!!忠平様も泉丸の手下っ」
ジロッと怒りに満ちた目で睨まれてる気がして
「・・・・じゃないなら、どうして私が誘拐されてることが分かったの?」
「『呪物の競売』に客として来てたんだ。競売中に兄上と竹丸を見かけたから意外だなと思って竹丸に声をかけた。伊予が行方不明だというから、二人はこの屋敷へ探しに来たと推測した。隠し場所としてもっとも考えにくいのは競売中の主殿だ。だから敢えて競売の途中で司会者に話しかけ、屏風の後ろに長櫃があるのを確認し、『主に長櫃を移動せよと頼まれた』と嘘をついて、下人と一緒にここへ運んだんだ。もちろん香泉さまに見られないよう細心の注意を払って。」
なるほどっ!!
納得して、意気込んだ。
「ありがとうっ!!じゃっ!早く逃げましょ!!泉丸に見つからないよう『細心の注意を払って』逃げればいいじゃないっ!!」
さっきできたなら今度もできるでしょっ!!
一刻も早く逃げ出したくてウズウズするっ!!
しっっ!!!
忠平様が人さし指を口に当て黙るように合図した。
ヒソヒソ声で
「誰かが母屋に入ってきたようだ。静かにしないと見つかる。」
えぇっ!!!
焦って見つめると、忠平様は眉を上げ面白そうな表情。
口角を上げてニヤッと笑い、明らかに楽しんでる??!!
もうっっ!!!
話声から察するに、泉丸と・・・・兄さま?
(その5へつづく)