EP281:竹丸と伊予の事件日記「断絶の夢路(だんぜつのゆめじ)」 その2
*****【竹丸の日記】*****
警備の下人は頭の中に『?』が山ほど湧いた表情で
「はい?何のことでしょう?今日は荷物が届くとは聞いておりませんが。あなたはどちらさまで?主とは誰のことですか?」
若殿は平然と
「平次というものだ。主の泉丸さまからここに届けた荷物を、今いる場所へ持ってくるように言われたんだが、手違いがあったようだ。お前がこの屋敷に仕える雑色かどうかを確かめさせてくれ。本当にこの屋敷の雑色なら主の居場所は知っているはずだな。今、泉丸さまはどこにいる?」
疑い深そうな目でギロっと睨みつけながら問い詰めた。
警備の下人は焦った表情で
「えっ?!!確か、今日のご予定は、xxxの屋敷で『呪物の競売』を主催されているはずです。こちらに荷物が届くとは一言もう伺ってません!本当です!」
汗をかきながら早口で言い放った。
若殿は口の端でニヤリと笑い
「よし。ではxxxへ行ってみる。」
我々は『比翼連理』屋敷を立ち去り、xxxへ向かって馬をしばらく進めた。
「xxxといえば、昔『秘密集会』が催された場所ですよねぇ~~!まだ屋敷があるんでしょうかね。荷物って宇多帝の姫のことですか?泉丸に誘拐されて、運び込まれたという想定ですね?若殿のハッタリも堂に入ってきましたよね。罪悪感無く嘘がつける性格ってホントに憧れますぅ~~!」
冷た~~~~い横目の細目で見つめられ
「幼い頃のお前から学んだんだ。」
xxxの屋敷につき、塀の外に馬をつなぐと、若殿は東門から中を覗き込み、車宿に牛車が何台か泊ってるのを確認した。
「本当に『呪物の競売』が行われてるようだな。客のフリをして堂々と入ろう。」
侍所で藤原平次と従者として案内を乞い、主殿へ案内された。
主殿は昔、『秘密集会』があったそのままの雰囲気で、母屋は内側に御簾をかけた格子で閉め切られ、唯一の入り口には金糸の刺繍で大きな花やくねくねとした茎の唐花模様が描かれた真っ赤な帷がおろされていた。
昔の『秘密集会』では影絵とはいえ男女の営みを見せようとしてたんだよなぁ~~~。
今思えば過激だなぁ~~!
子供には刺激が強すぎるっ!!
でも、ナニするのか知らなければ刺激でも何でもないかぁ。
・・・・純情なあの頃の自分が懐かしい!
若殿が緊張を漲らせながらキョロキョロしつつ、真っ赤な帷を押して中に入った。
宇多帝の姫が物陰かどこかに隠されていないかを、私も一応周囲を見回し、探してみた。
この主殿からは東・北・西の対の屋へ続く廊下がある。
厨と思われる建物や物置も西に離れてあるっぽい。
主殿の母屋の中に入ると、左手の一番奥には龍が描かれてる屏風があって、その手前には黒い水干・括袴・烏帽子姿の男が弓を手に持ち何か話している。
「・・・え~~、次に、この弓の来歴についてですが、これは延暦十三年(794年)、桓武朝第二次蝦夷征討の際、蝦夷の族長が絶命したときに握っていたものを、朝廷軍に加わった出品者の祖父が入手したもので、呪いたい相手に向かって弦を引き、音を鳴らすとその相手が必ず絶命するという逸品で、・・・」
話を聞いてる人々は、全部で二十人ぐらいで、四行五列ぐらいに並べられた円座にきちんと座ってる。
黒水干男が話し終えると、買い手の人々が手を上げながら口々に
「二十文!」
「二十五文!」
「五十っ!」
値を吊り上げていく。
弦を鳴らすだけで人が死ぬ弓??!!!
最終的にいくらになるのかな?
ワクワクしてると若殿は最後まで見ずに帷を押して外に出た。
チッ!
イラっとしたが、渋々ついてくことにした。
そうだっ!
宇多帝の姫を探しに来たんだった!
若殿が小声で
「手分けして探そう」
ウンと頷き、私は東の対の屋、若殿は西と別れた。
東の対の屋は格子で締め切って、遣戸も閉じてあった。
中へ向かって小さな声で
「誰かいますか~~~?」
返事がないことを確認し、遣戸を引いて中に入った。
人が隠れられそうな大きな櫃のふたを開けて中を確認したり、屏風や几帳の陰に誰も隠されてないかを調べて誰もいないことを確かめて外に出た。
北の対の屋でも同じことをしようとしたが、北の対の屋は格子があげてあり、御簾が下りているだけなので、中に誰かがいる気配。
ボソボソと声が聞こえるから、きっと泉丸が誰かと話してるとみた。
若殿が西から廊下を渡ってきたので、声を出さず口だけを動かしで
「いましたか?」
ウウンと首を横に振った。
御簾の中を指さし
「泉丸に会って聞いてみますか?」
微かな声で聞いてみると、若殿は眉根を寄せ少し考えこんだ。
と同時に御簾がフワッと動き、誰かが出てくる気配がしたので、二人とも慌てて角を曲がって柱の陰に隠れた。
柱の陰から見ると、泉丸と鈍色の袍に袈裟をつけた僧侶と思われる坊主頭の男が出てきた。
(その3へつづく)