EP279:伊予の事件簿「霊験の水精(れいげんのすいせい)」 その8
兄さまが昼間の『水の精』の恰好のまま現れた。
母屋に入ってきて水瓶と茶碗が置いてある前に座り込み
「浄見、何か食べるものを厨から持ってきて!腹が減った。」
私は厨へ急ぎ、後片付けをしてる侍女にお願いして、残り物のご飯と梅干し、貝の佃煮、鮎の塩焼き、汁物、甜瓜、を膳にしてもらった。
兄さまが夕餉を食べながら
「話って何・・・あぁ!そうか、『霊験の水』について知りたいことがあるんだろ?」
違うけど、それも気になってたので
「『霊験の水』の中身は何?塩と柑橘とヌルヌルしたもの?あれは何?薬効があるの?」
「あれはオオバコの種皮をすりつぶした物だ。服用すると咳止め、たんきり、下痢止め、消炎、むくみの利尿に効用がある。種皮の成分が水を蓄えヌルヌルとした感触を生み出す。漢方にも用いられてる。他には?」
「ええと、ある姫が、寝所に置いてた『霊験の水』が減って、『水の精』が現れたって言ったの知ってる?その『水の精』の正体は何?見た姫が二人もいたなら本当なのかなと思って。」
ズズッ!
汁物を啜り
「ああそれね、おそらく二人の姫は男を通わせたんだよ。その言い訳として、『水の精が現れて消え去ったから水かさが減った』と言ったんだ。男を通わせたことを周囲の人には秘密にしたかったんだろう。」
イヤな予感を思い出し、つい眉をひそめた。
「まさか、通った男って兄さま?その浅葱色の裃で?だから『水の精』を見たってことになったんじゃない?」
トゲトゲしい口調になった。
モグモグしながら眉を上げ面白がるような表情。
「市で声かけてきた女子のなかに、その姫たちがいたんだろうな。夜這いした心当たりはないが、もしかして妬いてる?」
プン!
横を向き
「せっかく、廉子様に許してもらったのに!兄さまがそんな態度ならもう一生逢わなくてもいいわっ!!」
ガチャンッ!!
食器をぶつける音がし、兄さまが荒っぽく、もどかしそうに立ち上がり、目の前に座る私に近づき抱きしめた。
「・・・・もういいってこと?浄見を愛しても。」
かすれ声で耳元で囁く。
ゾクゾクと興奮が背中を伝わる。
耳を唇でくわえられ、舌で触れられた。
くすぐったくって頸をまげると
フッと吐息を吐き
「寝ようか。」
お互い小袖姿になって、畳の敷いてある寝所に横になった。
久しぶりに、兄さまが腕を伸ばし、そこに頸を乗せる。
すぐに兄さまが身を起こし、覆いかぶさるように口づけた。
何度も舌が侵入し、這いまわる。
何度も舌を吸われ、歯と唇がまといつく。
弾力のある、しなやかな、長い舌。
動き回るそれを、何度も吸う。
味わうように、愛おしむように
唾液ごと、飲み込む。
私の中に、兄さまが入る。
喉の奥から、もっと奥へ。
その度に
快感がこみ上げ、
下腹部が疼いた。
兄さまの指が、下腹部の敏感な部分に触れたとたん
歓喜の興奮に突き上げられた。
下腹部に力が入り、身もだえ、喘ぎ声が漏れた。
「『霊験の水』のもう一つの使い道を知ってる?」
憎らしいほど冷静に兄さまが囁く。
「少し粘度があっただろ?あれは体液を再現してたんだ。塩分濃度や粘性まで。
だから性行為のときに、陰部を潤して、滑りをよくするためにも使われた。
『水の精』を見たと言った姫たちが隠したかったのは、本当はそれを使用したことだったのかもな。」
敏感な部分に触れた指が繰り返し刺激を与え始めた。
「浄見には必要ないけど」
どーゆー意味?
言い返す余地もないぐらい、次々と押し寄せる快感。
指が官能に触れるたびに体がピクリと波打つ。
動きが速くなり、下腹部の緊張が増す。
兄さまが自分の下腹部を押し付け、
「触って、軽く、触ってるだけでいい」
おそるおそる触れ、薄い皮膚の下に、破れそうなぐらいに満ちた、硬い、初めてのそれの感触に驚いた。
兄さまが波打つ動きに、逆らうように押さえつけ、それで敏感な部分を刺激される快感で眩暈がした。
動きが速くなり、感度が増し、下腹部の緊張が最高になる。
頭を反らし、果てようとしたとき、
兄さまが体を離した。
慌てたように背を向けモゾモゾする。
何してるの?
二人とも小袖をちゃんと着直した。
となりに横たわった兄さまの胸に寝返りを打ちながら抱きついた。
「なぜ見せてくれないの?最後が恥ずかしいの?私のを見てるくせにっ!!」
目を閉じ、眠そうな声で
「んーー。そう。まだ、無理、かな・・・・」
最後は消え入るような声で呟く。
すぐに寝息を立てはじめた。
頬を触る悪戯をして捕えられ、水桶に飛び込んで姿を消した『水の精』は、確か翁の姿だったって聞いたことがある。(*作者注:「今昔物語」巻27第5話 冷泉院水精成人形被捕語 第五)
「他の女子の目には、翁の姿に見えますように!これ以上、恋敵が増えませんように!」
鼻の先をツンとつつくと、ピクリと唇が動き、ニヤッと微笑んだように見えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
汗をかくとき、体液の組成に近いほうが飲み物として美味しいのは、体に吸収されやすく合理的で、今となっては当たり前ですが、最初に思いついた人って凄いですよね!