表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
276/505

EP276:伊予の事件簿「霊験の水精(れいげんのすいせい)」 その5

ふぅ~~ん。

じゃあ!


背伸びしてチュッと頬に口づけた。

影男(かげお)さんにされたみたいに捕まえられないように、したあと素早く飛び離れる。


不満そうにブツブツと

「口づけした仲なのに、今さら、頬かよ!もっと・・・・」

愚痴る。


これって・・・

恋心を利用し、男性から物品をせしめてるなぁ~~

四方女(よもめ)と同じ手口だなぁ~~と罪悪感を感じたけど、

まぁいいか!

開き直った。

どうせ年取ればこの方法は使えないし。


内裏へ帰ろうとすると、雑色が忠平(ただひら)様に文を持ってきた。

文を開いて読んだ後、チッ!と舌打ちし

「伊予、今日はここに泊まっていけばいい。私は上皇の命で乙訓郡(おとくにぐん)に出かけるから明日まで帰らない。ちょうどよかっただろ?」

皮肉気に微笑む。


「ありがとう!でも少し休んだら帰るわ!夜一人で過ごすのは怖いし。雑色がいてくれるとしても。」


「何か、いつも時宜(タイミング)が悪いなぁ」


頬をポリポリかきながらボヤいた。


忠平(ただひら)様を見送った後、お昼寝するなら塗籠(ぬりごめ)で寝た方が安全かな?と思いついて、塗籠(ぬりごめ)に主殿の畳を持っていって敷いた。

塗籠(ぬりごめ)妻戸(つまど)を閉め、隙間だけ開けると、真っ暗な空間に薄い光がさし、ちょうどいい暗さになった。


寝転がって少しウトウトしてると、妻戸(つまど)の向こうから

「浄見、そこにいる?」


低くて硬い声が響いた。


えっ?

寝ぼけながらも起き上がって

まだはっきりしない頭で


「兄さま?どうしてここにいるの?」


妻戸(つまど)の向こうから

「ここの雑色に銭を握らせてる。浄見が来たらすぐに知らせてくれる。入っていい?」


ドキッ!


躊躇(ためら)い、悩んだけど


「ダメ。まだ廉子(やすこ)様に許してもらえてないから。」


ふぅ~~~とため息が聞こえ

「そうだな。廉子(やすこ)屑籠(くずかご)にやたら文が溜まってると思ったら、浄見のだったのか。」


ズキッ!


ショックを受け

「やっぱり読んでくれてない?」


「いいや。結んであるのをほどいた形跡はあったから、読んでると思うよ。」


「・・・・・・・」


黙ってるなんて時間がもったいない!


妻戸(つまど)越しでも何でも、話さなきゃ!


「兄さま、お元気?体調とか、仕事とか、その・・・」


フフッと笑い声が聞こえ

「あぁ。元気だし、何かこの頃、市でよく女子(おなご)に声をかけられる。この直垂(ひたたれ)が目立つのかな。雑色に変装してるのに。」


どんな格好なの?

気になったけど、会うわけにはいかない!

そりゃあ、兄さまは美男子(イケメン)だし

雑色だと思えば声をかける障壁(ハードル)も低くなるってもの。

誰でも声ぐらいかけるわよ!


ちょっとイラっとして


「浮気し放題なの?ふーーーーーーん。」


声にトゲが混じった。


妻戸(つまど)越しにも、背を向ける気配がわかった。

「じゃ、もう行くよ。浮気・・・かぁ。そうだな、するかもな。浄見がはやく引き留めてくれなければ、寂しすぎて、誰でもいいからそばにいて欲しいと思うかも。」


はぁ????!!!!!

何ソレ?!!!

私のせいっ??!!


「今更でしょっ!妻が二人と恋人がたくさんいる人が言う事っ!!?今だってどーせ、相変わらず、さんざん遊んでるんでしょっ!!」


ツバを飛ばして言い放った。


「・・・ん?まぁ、・・・・そうだな。そうかもな。じゃ、もう行く。」


反論しないの?

怒ったの?


不安になり焦る。


それに、言わなきゃ!


ちゃんと伝えなきゃ!


「兄さまっ!待っててね!絶対、廉子(やすこ)様を説得するから!許してもらうから!それまで待っててね!!きっとよ!」


涙まじりの大声で叫んだ。


温かい液体が、ボロボロ頬をつたう。

誰も見てないし、どれだけ泣いても恥ずかしくない。

目が真っ赤でも、鼻水が出てても。


少し立ち止まった後、

立ち去った気配があった。


大好き。


いつもいつも、いなくなった瞬間に

思い知らされる。

魂が体から引きはがされるような気がする。


この人がいなければ、生きてる意味がない。


涙が乾くのを待って内裏へ帰った。


茶々(ちゃちゃ)に『霊験の水』を渡すと茶々(ちゃちゃ)は飲まずにずっと枕元に置いておくのだそう。

いつか美男子が現れるようにって祈るって言ってた。


その前に自分の枕元に一晩おいてみたけど、水の精は現れなかった。

残念!

見たかったなぁ~~~!

一尺(30cm)の美男子(イケメン)水の精!!


それからも、毎日、女房の仕事を終えると、廉子(やすこ)様へ文を書き続けた。

書くネタもとっくに尽きてたけど、たわいのない、茶々(ちゃちゃ)との会話とかなんでもいいからひねり出して書き続けた。


ある日、百一通目の文を書き終えくつろいでると、

影男(かげお)さんが文を持ってきてくれた。


「大納言のご正室からだそうです。」


ドキッ!!


手渡され、震える手で受け取り、開いて読んでみる。

(その6へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ