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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
268/507

EP268:伊予の事件簿「初入の袖(はつしおのそで)」 その5

茶々(ちゃちゃ)がギクッとして固まり、頬をピクピクさせながら笑い

「ええとぉ、師匠がそもそも、色っぽい、肉感的な女性が好みらしくて、個人指導を受けたお気に入りの子たちは、みんな自分で『私脱いだら凄いんです!』とか言いそうな子たち。実際、衣越しにもふくよかに見えたわ。」


はぁ~~~~~~~~~~。

長い溜息がでた。

やっぱり!!!

私じゃ物足りなかったのね?

ふ~~~ん・・・・・

でも、もういいわ!

どーせ別れた人だしっ!

過去の人だしっ!!

関係ないっ!!


目に溜まった涙がこぼれないように、何度もパタパタと速く(まばた)きをして、茶々(ちゃちゃ)に気づかれないように、乾かそうとした。


茶々(ちゃちゃ)が気を使い、明るい声で話題をそらした。

「そうそう!で、私も師匠から『白氏文集(はくしもんじゅう)』の『長恨歌(ちょうごんか)』が入ってる部分の書を借りたんだけど、ちょっと変なところが気になって。伊予も知ってるでしょ?おかしい気がするんだけど、どこか分からないの。」


見せてくれた書にざっと目を通す。

確かに違和感があった。

記憶と比べてみると


「う~~ん、多分ここじゃないかな?

『御宇多年求不得 (天下統治の間長年に渡り求めていたが得られなかった)』

の後に

『無徳無善不如虚』

が書き加えられてる。

で、

『六宮粉黛無顔色 (宮中の奥御殿にいる女官たちは色あせて見えた)』

の後に

『將其肉撒上麵粉』

が、

『春寒賜浴華清池(彼女は春まだ寒い頃、華清池の温泉を賜った)』

の後に

『春寒賜浴華卵池』

が、

『温泉水滑洗凝脂 (温泉の水は滑らかで、きめ細かな白い肌を洗う)』

の後に

『温凝脂洗裹粉肉』

が書き加えられてるところが私が憶えてるのと違う気がする!」


茶々(ちゃちゃ)がふんふんと頷き

「で、それぞれどういう意味なの?『無徳無善不如虚』は『美徳も優しさもなく、空虚以上のものはない』って意味よね?『將其肉撒上麵粉』『春寒賜浴華卵池』『温凝脂洗裹粉肉』はどういう意味かしら?」


私もう~~~んと考え、ある答えがひらめいたけど、あまりにも荒唐無稽(こうとうむけい)なので口に出せなかった。


(きの)希与之(きよし)が書き加えたのかな?それとも書き写すときに既に書いてあったのかな?」


考えこみながら呟く。

茶々(ちゃちゃ)が私の様子に気づき


「伊予?何かわかったの?わかったなら教えてよ~~~!」


肘でグイグイつかれて、仕方なく


「自信ないんだけど、『將其肉撒上麵粉』って『肉に小麦粉をまぶす』って意味で、『春寒賜浴華卵池』って『春まだ寒い頃、卵の池を賜った』って意味で、『温凝脂洗裹粉肉』って『粉をつけた肉を温めた油で洗う』って意味じゃないかな?」


茶々(ちゃちゃ)が驚いたように目を丸くし

「じゃ、料理方法なの?粉と玉子をまぶした肉を、油を使って温めるの?美味しいのかしら?想像がつかないわね!灯明(とうみょう)の油を使うのかしら?大丈夫なの?そもそもあんなもの食べれるの?」


でも、料理方法だとしてもなぜ『長恨歌』に付け加えるの?

そして『無徳無善不如虚』は直前の『御宇多年求不得』と合わせると、宇多上皇(とうさま)に対して不敬な意味を持つのでは?まるで宇多上皇(とうさま)が『美徳も優しさもなく、空虚以上のものはない』みたいじゃない!


もし(きの)希与之(きよし)がこれを付け加えたんだとしたら、朝廷に反抗的な人ってこと。

兄さまに伝えた方がいいかしら?


悩んだけど、もう終わった恋だし。

会えばまた、悲しくなるだけだし。


気にしないっ!!

全部忘れることにした。


次の日、茶々(ちゃちゃ)と一緒に東市(ひがしいち)へ出かける約束をして、水干(すいかん)(くく)(ばかま)を着て、角髪(みずら)を結った少年風侍従姿で陽明門で待ち合わせした。

茶々(ちゃちゃ)んちの牛車が来てくれるというので待ってると、この前とは違う牛車が目の前にとまった。

茶々(ちゃちゃ)がまだ桐壺から来てないので、牛のそばに立ってる四十ぐらいの牛飼童に


茶々(ちゃちゃ)がまだなのだけど、茶々(ちゃちゃ)のお宅の車ですか?」


牛飼童が車箱に後ろから近づき御簾を上げ、中に向かって話しかけると、中から雑色姿の見知らぬ男が出てきた。


その男が愛想よく微笑みながら近づいてきて、

「ええ、うかがっております。さぁ乗ってください。」


にこやかだけど不自然に張り付いたような笑顔。

後ずさりして

「いえ、茶々(ちゃちゃ)が来るまでここで待ちます!」


脇に硬い物を押し当てられた感覚があり、見ると刀子(とうす)だった。

「大人しく乗れっ!!さもないと血を見るぞ。」


私を誘拐しようとする人に思い当たる人は一人だけ。

泉丸(せんまる)間者(スパイ)が梅壺で逢引きしてるのを見てたのね?


別にイチャついてたワケじゃないのに!!

別れ話してただけなのに!!

どこかの田舎に連れて行かれて、嫁として売り飛ばされるの?

(その6へつづく)

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