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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
261/505

EP261:竹丸と伊予の事件日記「鞍替えの群盗(くらがえのぐんとう)」 その10

*****【竹丸の日記】*****


泉丸(せんまる)がパンパンと手を叩いて再び注目を集め

「では、酒の肴にお話しましょう。今回の計画は八年前、多摩郡(たまぐん)郡司を通じて物部氏永(もののべのうじなが)の群盗の一味に仲間として加わるところからはじまりました。・・・・・・・」


泉丸(せんまる)の話では物部氏永(もののべのうじなが)を信用させるため、実際に官物輸送を襲い、税を強奪したことも二度や三度ではないが、強奪した官物の少なくとも半分は焼失や紛失を装い物部氏永(もののべのうじなが)から(かす)め取って元の正倉へ戻したらしい。

物部氏永(もののべのうじなが)に気に入られるためなら恋人のフリもしたそう。

猜疑心(さいぎしん)の強い、慎重な男だから完全に信用されたと確信するまでに八年もかかったとのこと。

今回朝廷から追捕(ついぶ)使軍が派遣されるのを利用し、

追捕(ついぶ)使軍の動向が手に取るように分かるから』

とそそのかし、加わらせた。

物部氏永(もののべのうじなが)无射丸(むざまる)と名乗り多摩(たま)郡司の警備の雑色として加わった。

初めの三度の官物輸送で追捕(ついぶ)使軍に上手く群盗を捕らえられたと思わせ、四度目は泉丸(せんまる)自らが物部氏永(もののべのうじなが)と名乗り捕縛されるという作戦だった。

昨夜、武蔵(むさし)国府へ忍んできたのは、身代わりになる作戦を遂行することを物部氏永(もののべのうじなが)に伝えるためと、若殿(わかとの)に密かにその作戦を打ち明けるためだったらしい。

そのために以前から官物強奪の際、人夫(にんぷ)泉丸(せんまる)の姿を見せ物部氏永(もののべのうじなが)の正体だと匂わせたせいで、正体は小柄の美女だったと噂になった。

(本当は痩せているが大柄の美男。本物の物部氏永(もののべのうじなが)は小柄な醜男(しこお)。)


物部氏永(もののべのうじなが)は、恋人・泉丸(せんまる)の自己犠牲をせめて見届けねばと悲痛な思いで追捕(ついぶ)使軍に参加してたのに、裏切られ、全てを失い獄につながれる羽目になった。

悪事には共感できないが、恋人に裏切られた衝撃には同情する。


以前から多摩(たま)郡司とも通じており、秩父郡(ちちぶぐん)倉から略奪と放火の応酬も、群盗勢力の弱体を狙った泉丸(せんまる)が企んだことだった。

泉丸(せんまる)の把握する群盗は一網打尽にできたとしても、新たな群盗にはまた一から対策を練らねばならない。

イタチごっこのように際限なく続く戦いだと嘆いていた。


「私に密命を下された、さる高貴なお方はわが国の将来を案じ、東国の騒乱を一刻も早く収めるように命じられた。しかし、ここ、東国には開墾荘園で私腹を肥やし、それだけに飽き足らず、納めるべき正税すら略奪し財を成して、ゆくゆくは(つわもの)を組織し、朝廷に反乱を企てようとする不届(ふとど)き者たちがいることを肌で感じた。」

ギロっと睨みつけられた平良兼(たいらよしかね)殿が居心地悪そうにモゾモゾした。


「それらの不届き者たちにいかなる(すべ)を用いるべきかの問題は残るが、とりあえず今夜は物部氏永(もののべのうじなが)討伐という勝利の美酒に心ゆくまで酔おうではないか!!」

酒でほんのり頬を染め、高らかに言い放つ泉丸(せんまる)は、いつもの優美さに華やかさが倍増し、

『カリスマってこーゆー人のこと?こんな人が帝なら皆命を投げ出しても惜しくないと思うかもねぇ~~~』

白湯を飲もうとしたまま固まって見とれてた。


若殿(わかとの)にボソッと

「白湯が袴にこぼれてるぞ!」

注意されるまでは。


若殿(わかとの)はいつから泉丸(せんまる)が関わってるって知ってたんですか?」


御牧(みまき)を訪れたとき、牧長(ぼくちょう)が貴人が来たと言ってただろう?私が、文を書き残した。あの阿久原牧(あくはらまき)は宇多上皇の勅旨牧(ちょくしまき)だ。あそこで泉丸(せんまる)は群盗たちの馬を調達したんだ。」


「あぁ!アレですか!その貴人がぁ。」


「それに泉丸(せんまる)は九年ほど前から東国の騒乱を憂いてらした宇多上皇の手足となり奔走してただろ?藤原利仁(ふじわらとしひと)殿に近づいたり武蔵(むさし)国へ出かけたり、騎射訓練場を開設したり。新たな商売を次々と始めるのだって銭を集め行動しやすくするためだろう。その頃から今回の下準備を整えていたんだろう。時間をかけて、じっくりと目的を最後まで完璧に成し遂げる!全く大したヤツだ!」

最後は素直に感嘆の声を上げた。


突然、物部氏永(もののべのうじなが)のことが頭に浮かんだ。

作戦とは言え、ほんの一時(いっとき)でも泉丸(せんまる)と恋人同士でいられた人。

寂しい、しんみりした気分になり、


泉丸(せんまる)は好きでもないのに我慢して物部氏永(もののべのうじなが)と恋人関係にあったんでしょうか?それとも少しは好きだったんでしょうか?そこまでして群盗を討伐しなければならなかったんでしょうか?恋人だと思ってる人に騙された物部氏永(もののべのうじなが)があまりにも気の毒です。はじめは、泉丸(せんまる)みたいな素敵な人を一瞬でも恋人にできたんだから死んでも悔いはないでしょって思ってましたけど、あまりにも好きになりすぎて、自分の一部のように感じていた人に裏切られるなんて、そんなことになるぐらいなら、最初から付き合えないほうがマシですよね。」



若殿(わかとの)は感情が空っぽになったような無表情で、虚空(くう)を見つめ

「獲得したときの喜びは一瞬で終わるが、失った悲しみは一生続くのかもしれないな。」

ポツリと呟いた。

(その11へつづく)

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