EP260:竹丸と伊予の事件日記「鞍替えの群盗(くらがえのぐんとう)」 その9
*****【竹丸の日記】*****
まぁね~~~。
目元だけでもわかるほどの美男子だったし。
あれだけの美形はゴロゴロ落ちてないよねぇ~~。
昨夜、武蔵国府にいたんだから、東国に来てることは知ってたしねぇ~~。
何となく納得し、
「なぜ群盗の首領をしてるんですか?」
素っ頓狂な声で、場違いな質問をした。
泉丸は上半身を縄でぐるぐる巻きにされ、手を後ろで縛られていたが、それでも微笑みを絶やさず
「やぁ、竹丸。また意外な場所で会ったね。群盗の首領?まぁね。小遣い稼ぎさ。」
上皇の弟君なら銭なんていくらでも引っ張れるだろうに、よりによって悪事に手を染めなくても?!
私が泣き出しそうな顔をしてたのか、泉丸が心配そうに声を落とし
「気にしないでくれ。私が危険な商売をするのが好きなのは知ってるだろ?盗賊ほど簡単でスリルのある商売はないんだ!」
「でもぉ・・・!捕まって獄につながれてしまえば元も子もないじゃないですかぁ!」
平良兼殿が会話をやめさせようと縄をグイッと強く引き
「平次殿とも知り合いの貴族か?それにしても群盗の首領だとはっ!はっ!世も末だな。」
泉丸はキッ!と平良兼殿を振りかえり睨みつけた後、若殿に向き直り
「平次殿!伝言を受け取ったか?私の恋人は无射丸だ。」
目の奥で訴えかけるように見つめ合った。
若殿は眉をひそめウンと頷くと
「利仁殿!无射丸とその従者を捕らえてくれっ!!」
命じ、背後に静かに忍び寄っていた利仁殿と従者たちは素早く无射丸、檜前、神崎を捕まえた。
手早く縄をかける。
无射丸は縄をほどこうと暴れつつも
「何をするっ!!群盗は泉丸だっ!!私じゃないっっ!!奴が本物の群盗の首領だっ!!」
アレ?と疑問に思って
「なぜ泉丸の名前を知ってるんですか?」
无射丸がハッとし、もがくのをやめた。
「ま、まさか・・・・!泉丸っっ!!お前は内通者なのかっ?!朝廷側の人間なのかっっ!!」
泉丸を睨み付けた。
泉丸が静かに頷くと无射丸は大声で
「信じていたのにっ!!嘘だったのか?!あの言葉もすべてっっ!!俺だけをっっ!クッソッ!全て罠かっっ!俺に近づいて捕えるためのっ?!ぅぅわぁぁぁぁーーーーー!!!クソ野郎っっーーーー!!」
両手を振り回して暴れたかったんだろうが、なんせがんじがらめにされてるからその場で体をモゾモゾさせてるようにしか見えなかった。
泉丸は平良兼殿を横目で睨み付け
「早く縄をほどけっ!!下郎めっ!!」
ワケのわからない威圧感に押され、オズオズと縄をほどき
「あのぉ~~~、貴方様はどちら様で?」
凍り付きそうなほど冷たい視線で一瞥し
「東夷に名乗る名などない。さぁ、平次殿、国府でゆっくり説明しよう。」
若殿に近づきヒラヒラと手を振って合図し、无射丸の乗ってきた馬にひらりとまたがると国府の方向へ駆けて行った。
平良兼殿はキョトンとしたままだが、従者たちが无射丸、檜前、神崎と捕まえた群盗たちを縄でつなぎ歩かせた。
官物輸送の人夫と私は囮の荷を積んだ馬をそのまま国府へ連れて帰った。
道中ふと思いつき、
アレ?よく考えると『東夷』っていうけど平良兼殿の父親が高望王だから、元皇族という立場は泉丸と同じでは?
足を棒にしてヘロヘロになって武蔵国府に帰り着くと、泉丸が門まで迎えに来て
「迎賓館で夕餉と祝宴をするぞっ!!早く足を洗ってこいっ!!」
わ~~い!ご馳走だっ!!
疲れも吹き飛んでいそいそと足を洗いに行った。
泉丸が迎賓館と称した高床の建物にのぼり、御簾を押して入ると、いち早く到着していた、若殿、綿丸、藤原利仁殿、平良兼殿、従者たち、泉丸、武蔵国介が輪になって座り、国府に仕える給仕の侍女や雑色が忙しそうに膳や銚子を並べたり運んだりしていた。
「おいっ!早くここへ座れっ!今回の大捕り物の全容を泉丸が話してくれるぞ!」
若殿が手招きするところへ行き、膳の前にちょこんと座った。
豪華な海の幸っ!!
早く食べたいっっ!!
アワビやウニや鯛の造りに心を奪われてると
「では、皆さま杯を手にして下さい。十年の長きにわたる東国の乱を引き起こした張本人、群盗の頭目にして武装蜂起の重罪人・物部氏永捕縛の成功を祝って!」
高らかに告げたあと、杯を飲み干した。
皆もわぁっ!!と歓声を上げたと思ったら、杯を空にした。
えぇっっっ???!!!
一人置いてけぼりの私はビックリしたけど
じゃあ・・・・
と考え
「无射丸が物部氏永だったんですか?それとも檜前?神崎?」
若殿を問い詰めた。
(その10へつづく)