EP259:竹丸と伊予の事件日記「鞍替えの群盗(くらがえのぐんとう)」 その8
*****【竹丸の日記】*****
パニックになりつつも明日の大捕り物に備えて寝ることにした。
次の日、若殿に泉丸の伝言
「恋人は无射丸だと伝えてくださいって。昨夜、泉丸がここに現れたんです。」
伝えると、訳知り顔でウンと頷いた。
何が分かったの?
チンプンカンプン。
武蔵国府から囮の官物を背に乗せた馬を引き、人夫たちが歩き始めた。
法螺貝を吹ける人夫がいなかったので、何とか音を鳴らせる私が荷運びの一人として官物輸送に同行することになった。
「これから群盗が襲ってくるんですよね?やられたらどうするんですかっっ?!!絶~~っっ対っ!!真っ先に助けに来てくださいねっっ!!」
若殿の胸ぐらに掴みかかり念を押した。
鬱陶しそうに目を逸らし、鼻であしらうように
「ハイハイ。」
呟くのでもう一度肩を掴んで揺すり、
「宇多帝の姫だと思って助けてくださいねっっ!」
ギロっと睨みつけられ
「浄見はそんなにブヨブヨじゃないっっ!!」
怒鳴りつけられたけど、
『そこ?もっといろいろ違うけど。痩せればいいの?』
変なツッコミが思い浮かんだ。
京へ向けて続く東海道をトボトボと歩き続け、かれこれ二時(4時間)。
足がだるくなってきたけど休憩はまだかなぁ~~~
考えながら田園風景を抜け、こんもりと茂った林に差し掛かった。
カンカン照りから逃れられる喜びで、思わずかけだしたくなるくらいだった。
林の中を少し進むと、キラリと木漏れ日を反射した何かが光り、ドスの利いた声で
「おいっ!!荷物を置いていけっ!さもないと切り殺すぞっ!!」
柄の曲がった刀を振りかざし、馬の前に一人、横に二人、道を阻むように顔の下半分を布で覆った男たちが飛び出した。
あっ!そうだっ!
焦ってプッと息を吹き込むが、唇を振動させないと法螺貝は鳴らない!
落ち着いてっ!!
ゥブブ、ブヴォォ~~~~~~~!!!
ゥブォ~~~~~!!!
法螺貝の音が鳴り響きホッとしてると、群盗たちがキョロキョロと辺りを見回した。
群盗たちは黒の筒袖、括り袴で黒の覆面だから夜は闇に紛れそう。
その時、林の木陰から一人の男が姿を現した。
男は、黒地に金糸で刺繍がついた水干と括り袴、髪を後ろで一つに束ね、顔下半分は黒い布で覆っているが、睫毛がバサバサ音をたてそうなくらい長く、瞳の輝きに一目で釘付けになるぐらい迫力のある人だった。
おそらく群盗の首領の中でも上位だろうなぁと思わせる何かがある。
その群盗の首領が
「落ち着け。慌てるな。大丈夫だ。官物は頂く。怪我をしたくなかったらそこをどけっ!」
官物輸送の人夫たちに命令する。
モチロン我々は素早く荷から離れ、大人しくしてる。
パカッパカッ!!
ッドッドッドッ!!
馬たちが駆けてくる足音が聞こえ朝廷軍がやっと到着した。
手綱を引き、馬を落ち着かせると、真っ先に駆け付けた若殿が群盗の首領を見つけ話しかけた。
「ここまでだ。お前たちの素性はわかっている。多摩郡司の命令で動いていることもな。奴らを捕らえろっ!!」
朝廷軍の人々がヒラリと馬から降り、逃げ出そうとする群盗たちに次々と縄をかけた。
群盗の首領は微動だにせず腕を組んでその様子を見ている。
『さすがだなぁ~~!大物は落ち着いてるっ!!』
感心してると、若殿を睨みつける首領の目がキラリと光り
「多摩郡司?何のことだ?」
そこへ平良兼殿が素早く駆け寄り、その首領の腕を取り、後ろに捩じり上げた。
縄をかけようともみ合ってうちに覆面がハラリと地面に落ちた。
「あっっ!!!」
昨夜以来、二度目の驚愕の声を上げた。
群盗の首領の覆面の下に泉丸の顔があった。
(その9へつづく)