EP255:竹丸と伊予の事件日記「鞍替えの群盗(くらがえのぐんとう)」 その4
*****【竹丸の日記】*****
藤原利仁殿は左近衛府将監で、勇猛果敢な武人と言う言葉から想像されるような濃い眉やごつごつした顔つき体つき!ではなく、意外にも公卿あるあるのようなうりざね顔で眉毛も薄い、髭も薄~~いちょび髭が鼻の下と顎にチョロっと生え、鼻が少し鷲鼻の全体的にはひょろっとした体型の色白な男性だった。(*作者注:「相即不離の色香(そうそくふりのいろか)」に出てます!)
従者二人は斎藤と加藤という人でどちらも細身ながら素早い身のこなしは『ただ者じゃない感』に溢れてた。
平良兼殿は寛平元年(889年)に時の宇多帝が勅命により高望王に平朝臣を賜与し平高望となった人の息子。(*作者注:「東下の讖緯(あづまくだりのしんい)」に出てます!)
平高望殿は上総国介となって任地へ赴き、息子たちは坂東豪族の娘を娶って定住し、未墾地を開発・所有し坂東に基盤を固めつつある。
その息子の平良兼殿が群盗を討伐し朝廷に武功をアピールしようと討伐軍参加に名乗りを上げた。
上手くいけばいい身分をもらえるかもだし。
平良兼殿はいかにも武人といった感じの容貌で、エラの張った四角い顔に太い眉で、ゴワゴワの髭を顔じゅうにたくわえ、立派なもみあげと今にも繋がりそう。
目もギラギラだし、肌も脂ぎってギラギラだし、まだ二十代前半とは思えない脂の乗り方。
その従者・長田と少田も主と似たような、筋肉はあるがその上にうっすらと脂肪を蓄えた実践型の『喧嘩屋』体型。
現地で招集した健児は三人で、これも一人は強面で四十代前後の一番腕っぷしが強そうな无射丸という男と、それに付き従う若い檜前と神崎という男たち。
普段は武蔵国多摩郡郡司の警備の雑色をしていて、郡司のお墨付きらしく多摩郡郡印が入った書状を持ってきていた。
若い檜前と神崎は背が高く、筋骨隆々で逞しい見るからに運動神経のよさそうな人たちだが、无射丸はガッチリしてるが背が私より少し低いぐらい。
目じりが上がった滴形の目に、潰れた鼻、厚い唇で、額は狭く皺が多い。
私でも喧嘩に勝てるんじゃないの?と思いながらチラ見すると、笑みを浮かべつつ睨み返された目には何をしでかすかわからない狂気をはらんでて背筋がゾッとした。
簡単に言えば『人を殺してそう!』な気配。
捕まえた群盗を上野国府に連行し、獄の役人に引き渡した後、上野国国介の曹司(官司の庁舎もしくは官司の建物の一部や部屋)で主たちは一堂に会した。
私も『一番の従者』なのでコッソリ忍び込み、若殿のそばに侍った。
国介が干からびた皮膚を張り付けた顔に愛想笑いを浮かべ
「いや~~~!こたびの捕り物!お見事でしたなぁ~~~!」
腹の底から感心したように声を上げた。
笑顔をつくった口の端の皮膚がパリパリと音をたてそうなぐらい口角を上げて笑う。
愛想笑いが何の効果もないと分かると国介は言い訳するように口をとがらせ、
「しかし、我々国司も無策だったわけではありません!以前から官物輸送の護衛の雑色を増やしたこともありましたが、いつどこで襲われるか見当もつきませんでしたし、経費の面からも毎回大人数で護衛するわけにも参りませんからねぇ。」
平良兼殿が目をギョロつかせ
「そうですな。平次殿の策、『官物輸送の日程を各国府へ知らせ、警備の雑色に法螺貝を持たせ尾行し、襲撃の合図とともに盗賊を打ち取る』という策が見事にハマりましたな。つまり国府の中に盗賊の間者がいるというわけですな。」
藤原利仁殿がちょび髭をねじりながら
「この作戦で三度までは成功しましたが、盗賊も賢くなっているでしょう。次は上手くいくとは限りません。平次殿、群盗討伐はこれで終わりですか?それとも次の策を考えてらっしゃるのか?捕えた群盗のなかに肝心の物部氏永はいないようですが?」
若殿がジッと考え込んだ様子で眉根を寄せ
「今回の目的は物部氏永を捕らえる事です。それまでは京に帰るわけにはいきません。」
(その5へつづく)