EP254:竹丸と伊予の事件日記「鞍替えの群盗(くらがえのぐんとう)」 その3
*****【竹丸の日記】*****
ブゥォ~~~~~!!
ヴゥゥォォ~~~~~~!!
法螺貝が鳴り響いた。
見通しの良い田園地帯を抜け、ちょうど林に差し掛かった辺りだった。
馬を歩かせていた我々は、若殿の
「行くぞっ!!」
の声で一斉に馬を駆けさせた。
砂埃を上げ、法螺貝の音が聞こえた場所へ駆けつけると、布で口から下を覆った男たちが、柄が曲がった刀を構え荷を積んだ馬にジリジリと近づいていた。
馬を御す人夫や守る警備の雑色を蹴散らそうと
「大人しく荷をよこせっ!切り殺すぞっ!」
怒鳴りつけた。
そばには馬上から様子を見守る一味の首領らしき者もいて、我々が駆けつけたのに気づくとその首領が
「おいっ!国検非違使だっ!逃げろっ!」
叫ぶと群盗は散り散りに逃げ始めた。
対する我々は、藤原利仁殿やその従者たち、平良兼殿とその従者たちと、健児(国内の郡司・富豪百姓のうち弓馬に通じた武勇輩、帰順して全国各地に移住させられた蝦夷の後裔たる俘囚)たちと私と若殿と綿丸の総勢十二人の朝廷軍である。
群盗を一人でも多く捕えようと襲い掛かった。
逃げた群盗を馬上から次々と弓で射たり、反撃する群盗と切り結んだりの大乱闘。
私は腕っぷしに自信がなかったので、みんなの乗り捨てた馬を木につないだり、荷を運ぶ人夫たちを集めて、刀を構えて一応守ってるふりをしたりで場を取り繕ってた。
若殿と藤原利仁殿は早々に馬を駆って逃げた群盗の首領を追いかけて捕まえたらしく、縄で上半身をぐるぐる巻きにされ後ろ手を縛られた首領が引っ立てられて帰ってきた。
藤原利仁殿の従者たちが二人捕まえ、平良兼殿たちも二人捕まえたが、国内で招集した健児たち三人は地元民で有利なハズなのに一人も群盗を捕えなかった。
・・・・まぁ私も綿丸も誰も捕まえてないから他人のことは言えないけど。
怖いしっ!!反撃されたらどーするのっ!
ここは、上野国から京へ官物を運ぶ東山道の道中。
これから捕まえた群盗を上野国国府に連行する。
十年ほど前(889年ごろ)から坂東において、中央へ進納する官物を強奪するといった「群盗蜂起」が頻発した(僦馬の党・寛平・延喜東国の乱)。朝廷はこれに対処するため、群盗を積極的に鎮圧しようとする「追捕官符」を発出し、国内の武勇者を追捕使の指揮下に入ることを義務づけた。
今回、上野国周辺の官物強奪を繰り返す群盗を討伐するため、朝廷は「追捕官符」を発出し国司の中から追捕使を任命し、国内の武勇者を招集し軍隊をつくって討伐するように命じた。
若殿はもちろん中央官人で大納言だから、身をやつして上野国国司の追捕使・藤原平次と名乗ることにし、ついでに京の武官・藤原利仁殿を招集して一緒に東国へ下った。
東国へ到着すると各国へお触れを出し、坂東で武勇の名高い健児や腕に覚えのある在地豪族などを集めた。
(その4へつづく)