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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
252/505

EP252:竹丸と伊予の事件日記「鞍替えの群盗(くらがえのぐんとう)」 その1

*****【伊予の事件簿】*****

【あらすじ:時平さまが東国へ群盗討伐に出かけ、三月(みつき)も都を離れると聞いた私は心配のあまり仕事も手につかない。好かれたい人には好かれず、愛したくても手遅れなこともある。何とか前向きな要素を探す私は今日も自分に言い聞かせる!】


*****【竹丸の日記】*****

【あらすじ:東国で租税の運輸を荷役馬を使って請け負う『僦馬(しゅうば)』と呼ばれる集団。彼らはそもそも身を守るため武装したのだが、転じて自身も荷や馬を強奪する群盗となった。群盗が跋扈(ばっこ)する東海道や東山道へ討伐のため、朝廷から追捕使(ついぶし)として時平様が派遣されることになった。目的である群盗の首領を捕らえ、溺愛する姫の元へ帰ることができるのか?時平様は今日も周囲の人々の不羈奔放(ふきほんぽう)に手こずる!】

私の名前は竹丸(たけまる)

歳は十九になったばかりだ。

平安の現在、醍醐天皇の御代、政権首位(トップ)の座につく(いち)大臣(おとど)と言えばこの人!大納言(だいなごん)藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

 私の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中・・・・だったのは過去のこと。

現在は十六歳の妙齢の女性に成長した宇多帝の姫とイイ感じになったと思ったのも(つか)の間、宇多帝の姫が『時平様と別れて恋人・妻がいない人と付き合う!』宣言をしたからさぁ大変!

何やら不穏な空気が漂い、張り詰めた空気(ピリピリムード)が満ちる時平様の剣幕という雷はいつどこに落ちても不思議じゃない!

*****【伊予の事件簿】*****


 業火のごとき灼熱が、地上にあふれる罪人を焼き付くすかのように地表を這う。

熱波が押し寄せる日々の隙間に、雨雲が空を覆い、(めぐみ)の雨が罪業に焼かれた傷を癒すかのような、過ごしやすい日が訪れた。


表向きは別れたことにし、どこで出会っても互いに無関心を装うと決めてから数日が立っていた。

その間、帝と雷鳴壺に訪れた兄さまとは目も合わせず、会釈すらかわすことなく、奥へ退いた。


このまま接点もなく日々を過ごしていれば、いずれどちらともなく、忘れてしまえるんじゃないかしら?


何となくそう思っていると、(もみじ)更衣が帝のお召しから雷鳴壺に戻ってくるなり


「伊予っ!!どこにいるのっ!!」


いつもと違って慌てふためいていらっしゃる。

(もみじ)更衣は出会った時から、おっとりしておおらかなご気性で、何をなさるのもゆっくりなさるので、こちらも()かされることもないし、緊張することもない。


なのに、あの口調って一体何が起きたの?!!


「はぁ~~~い!」


返事をしながら(もみじ)更衣が廊下を渡ってくるのを出迎えた。


畳にお座りになり、脇息(きょうそく)にもたれかかりながら


「大納言様のこと聞いた?東国の上野国(こうずけのくに)へお出かけになるのですって!追捕使(ついぶし)として!!」


ええと、追捕使(ついぶし)って、東国の強盗団を捕らえるために朝廷が国司の中から任命する役人でしょ?

兄さまは大納言だし、そんなワケないっ!!

耳を疑い、思わず険しい顔で(もみじ)更衣を見た。


「あのぉ・・・何かのお聞き間違いじゃないですか?一の大臣(おとど)が東国へ盗賊退治に行くなんて聞いたことがありませんわ!」


(もみじ)更衣がクリっとした目をもっとパッチリ開けて、私に言い聞かせるように真剣な顔つきで

「大納言様みずから東国行きを申し出られたらしいの!なぜかしら?そんな危険なことを!!伊予は何か聞いてないの?」


「えぇ??!!本当ですの?!あ、あの、私は何も聞いてません!その、大納言様とは、・・・・」


「何?何があったの?」


目がまん丸を通り越して飛び出しそうなぐらい大きく見開き、問い詰める。


いずれバレる事だし!

「私、実は、大納言様とお別れしたんです。もうお互い無関係でいましょうと、いうことになりまして・・・」


でもどうして?

急に東国なんて遠くまで、危険な仕事に、望んで出かけるなんて!

私のせい?


いいえっ!!

自意識過剰よっ!!

私一人のせいで自暴自棄になるような軟弱な人じゃないわ!


ふ~~~~とため息が聞こえ、(もみじ)更衣が

「そうなの。残念ね。じゃあ伊予も何も知らないのね。でも、伊予は平気?落ち込んでない?」


心配かけちゃいけないっ!


ニッコリ微笑み

「大丈夫です!時間が経てば忘れられます!きっと。」


表面上は取り繕えたけど、内面はオロオロしっぱなしで、白湯を注げば床にこぼすし、書を書けば誤字だらけで紙を何枚も無駄にするし、衣を繕えば重ねて縫い合わせ、糸をほどいて縫い直さなくちゃならないし、でしまいには


「もぅっ!!仕事が増えるだけだわ!伊予は今日はもう下がって!自分の(へや)で休んでちょうだいっっ!」


桜にきつ~~~く叱られた。


夕餉の後、薄暗くなった廊下で座り込んでボンヤリ庭を眺めてると大舎人(おおとねり)影男(かげお)さんが文を持ってきた。

開くと


『話がある。(いぬ)の刻(19時)陽明門にて待つ。 時平』


クシャっ!

文を握りしめた。


胸がドキドキしすぎて浅い呼吸になる。

頬が熱い。

頭がクラクラする。

(その2へつづく)

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