EP250:伊予の事件簿「虎斑竹の花(とらふだけのはな)」 その7
「え?ええと、淡竹っていう遊び人貴族が、貢がせてた四方女という姫に恨まれて殺されたの。その四方女っていう姫はモテない男性から大金を貢がせてたのね。茶々が淡竹にナンパされて付き合うかどうか悩んでたから泉丸に淡竹の『人となり』を確認しにいったの。」
影男さんが三白眼の黒目を上に動かし思い出そうと
「泉丸って、あぁ、『比翼連理』の彼ですか。彼には妻や恋人はいないんですか?竹丸にもいませんよね?」
「泉丸?さぁ、知らないわ。竹丸はいないわね。それがどうしたの?」
目を丸くして見つめる。
影男さんが真剣な顔で見つめ返し
「私には妻も恋人もいません。」
「はぁ?有馬さんと桜がいるでしょ?」
首を横に振り
「有馬はあなたに近づくために篭絡しただけです。あれ以来、関係を持っていません。
桜は兵部卿宮を嫉妬させるために頼まれて一芝居打っただけです。手を握ったこともない。」
ふ~~~ん、そう。
だから何?
ワケも分からずジッと見つめ合ってると
「あなたの恋人になることができます。」
ポツリと呟いた。
あまりにも無表情に照れもせず言うのでビックリして
「えぇ?本気で言ってるの?遊び相手じゃなく?」
ムッとして
「本気がいいなら本気になるし、遊びがいいなら遊びにします。」
そこまで他人まかせなの?
自分の気持ちはないの?
「そんなにどうでもいい感じなら恋人になってくれなくてもいいわ!他を当ります。」
「分からない人だなぁ!!」
口早に呟き、頬を両手で挟まれた。
手を払いのけようと
顔をブンブン振る。
そんな事はお構いなしに抑えつけられ口づけされた。
口中を確かめるように
丁寧に
おずおずと
激しく
私の舌を絡めとり
やさしく吸う
大事にされてるのが
伝わる
逞しい腕や
ゴツゴツした指から
想像もできないくらい
繊細な優しさで
口づけされた。
たどたどしい動きが
はじめてしたときの兄さまを思い出し
「ぅんっ!」
無意識に声を漏らしてた。
口づけが激しさを増し
手が背中を這い下り
身体をギュッと抱きしめられた。
忘れられる?
兄さまのことを?
一度考えてしまうと
違うところが気になって
続けていられなくなった。
手で体を押しのける。
三白眼の黒目が大きく輝き、食い入るように見つめる。
「房にいってもいいですか?」
掠れた声で呟いた。
う~~~ん
悩んでると突然
背中にあった腕の感触が無くなった。
影男さんの腕が誰かに掴まれ持ち上げられてるのが目の端に見えた。
ドスの効いた低い声で
「今、邪魔なのはあなたの方だと分からないんですか?」
影男さんが凄んだ。
「伊予に話がある。お前は去れ!」
兄さまが煩わしそうに影男さんの腕を払いのけた。
私の腕を掴み、御簾の中に引っ張り込もうとした。
連れて行かれそうな私に影男さんが
「伊予どのっ!どちらを選ぶんですか?大納言と私とっ!!」
鋭く叫ぶ。
立ち止まり、兄さまの腕を腕から外した。
「大納言様、私はもうあなたのことを忘れます。あなたも私のことを忘れてください。」
兄さまが絶句し動かなくなった。
「もう、二度とあなたに会いたくない。帰ってください。」
言い渡して体を押しのけ、一人で御簾の中に入ろうとした。
ガッ!!
兄さまがもう一度強く腕を掴み、荒々しく御簾を払いのけ私を引っ張り込んだ。
「影男っ!見たいのならついてこいっ!!見せてやるっ!伊予が誰を選んだのかをっ!」
影男さんは立ちすくんでいた。
私は無理やり引っ張られるのに抵抗し腕をブンブン振りながらも、ズルズルと引きずられていった。
グイッ!!
手荒く引っ張られ房のなかに投げ入れられた。
投げ出されそうになるのを、両手をついて身体を支えた。
手早く直衣を脱ぎ捨てながら
「脱げっ!!」
「嫌っっ!!」
怒りで顔を引きつらせながら
「私のものだっ!!浄見は私のものにするっ!!誰にも渡さないっ!!」
苛立たたしそうに袴の紐に手をかけた。
(その8へつづく)




