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EP25:番外編:真夏の夜

R15? R18? かと思います。

夜に読んでいただけたら幸いです。

 浄見と時平がそれぞれ17歳と29歳の頃、時平はできるかぎり浄見の元へ通ったが、仕事が忙しいこともあり毎晩というわけにはいかなかった。

ある夜、浄見は椛更衣から借りた物語の巻子本を自分用に書き写すという作業を昼からずっとしているにもかかわらず灯台の明かりに頼るような時間になっても終わらない事に疲れ果てていた。

女房は(へや)をもらえる女性使用人といっても、几帳や屏風で区切った空間が自分用に確保されているという意味なので、外の音は聞こえるし、中の音も外へ聞こえるはずであった。

「伊予、書き写し終わった?今日はここで寝てもいいかしら?」

と隣の房の女房・桜が几帳越しに話しかけるので浄見は

「ええ。今日は私一人よ。」

と自分の肩を揉み、腕を回しながら答えた。

時平が浄見の元へ通う日は、屏風や几帳に(はかま)を掛けて周囲の女房に知らせると、すくなくとの最も近くの房に寝起きする女房は別の場所でその時を過ごすという暗黙のマナーが浸透していた。

浄見が凝った肩をほぐそうと、腕を回したり、首を回したりしていると、

「手伝ってあげようか」

と耳元で囁かれた。

驚いた浄見はギョッとして振り向くと直衣姿の時平が微笑んでいる。

「兄さま!今日は忙しいのでしょう?文にはそう書いてあったじゃない。」

時平はにっこりして

「急に予定が変わったから。何かいてるの?」

と浄見の書いた紙をみると

「う~~ん。字の癖が、私の良くないところまで似てるなぁ。」

と少し困ったような嬉しいような顔で言った。

浄見は

「兄さまは来ないとおもって、すぐ隣に桜が寝ているので、大きな声を出してはダメよ」

と少し気取ってくぎを刺した。

時平は面白そうに少し笑ったが、頷いて寝床に寝転んだ。


 浄見は急いでこの作業を終わらそうとしたが、後ろに時平がいると思うと気になって集中できない。

とそわそわしているとどこからか荒い息遣いが聞こえてきた。

耳を澄ますと、息苦しそうに呼吸しているようなので、浄見は心配になり、振り向いて時平に

「誰かが苦しそうだわ!薬師を呼んだほうがいいのかしら」

とヒソヒソと話すと、時平は眠そうに眼をこすって起き上がり几帳の帷の隙間から外を見る。

浄見も一緒に覗くと、声は桜の房から聞こえる。

闇に目が慣れると桜の横になった後ろ姿とモゾモゾと手を動かしている様子が見えた。

相変わらず息遣いが荒い。

時平が身を引き、それにつられて浄見も見るのをやめた。

浄見は心配になって

「兄さま!桜は大丈夫なのかしら?どこか苦しいのじゃないかしら?」

時平がゴクリとつばを飲み込み声をひそめて

「桜は、多分・・・大丈夫だから」

と言った後、浄見の顔を真剣な表情で見つめる。

浄見は桜が心配だったが、時平が言うなら大丈夫だろうと信じ微笑み返して作業に戻った。

後ろでは直衣を脱いでいるサヤサヤという衣擦れの音が聞こえた。

桜の息遣いが速くなった後『はぁ~~』という長い溜息とともに静かになったので、浄見はホッと安心した。

振り返って『よかったわ!大丈夫そうね』と言おうとすると、時平が小袖姿で真後ろに座っていたので驚いた。

時平が顔を近づけ浄見を真剣な目で見つめ

「まだ終わらないの?」

というので、急にドキドキしてきた浄見は

「今日はもうやめようかな。終わらないし。」

と口早に答えると、時平の顔が近づき二人は口づけを交わした。


 浄見が自分の袴を几帳に掛けたころには、おそらく周囲の女房は寝静まっていた。

浄見は近くに寝ている同僚に房事の音を聞かれることを恐れ、添い寝するぐらいで済ますつもりだった。

時平もそのつもりだったようで大人しく隣で寝ている。

「桜は時々あんな風になることがあるの?」

と時平が小声で聞くと浄見は

「あまり普段は気にしないけど・・・どうかしら?」

と考え込む。

「浄見もああいう声を出しているよ」

と時平が言うので

「いつ?!」

と浄見は言った後、思いあたって恥ずかしくなった。

「・・・だから大丈夫なのね?」

とボソッというと時平が

「あんな声を聴くと・・・」

と言って黙る。

浄見も桜の声を思い出して自分もあんな風になっているのかと思うと恥ずかしさで消えてしまいたくなった。

そして、変な気持ちになった。

身体の一部が熱を持ち潤んだ。

ダメだというのに、時平に触ってもらいたい、口づけされたいと思った。

時平の汗ばんだ肌を自分の肌で感じたいと。

押しつぶされ、かき乱され、快楽の波に飲み込まれたいと思った。

そんな想像をしている自分が恥ずかしかった。

こんな恥ずかしさと淫らな欲望を教え刻み付け忘れられなくした時平が少し恨めしかった。

何も知らなかった頃は時平のそばで、安心してすぐに眠りに落ちることができたのにと。

そんな子供時代を手放してしまったことを少し後悔した。

時平に愛され、女の喜びを知るようになると、もっとすべてを自分のものにしたくなることに浄見は罪悪感と嫌悪感を抱いた。

いつも自分だけを求めてほしい、いつも自分だけで満足してほしいという欲求には際限がなかった。

自分がこんなに下品な貪欲な淫猥な人間になったのは時平のせいだと責任転嫁したかった。

だけど、時平によってもたらされる至上の快楽は時平への想いをさらに深め、依存性を伴った。


時平の方へ寝返りをうつと、時平も浄見と対面するように寝返りうち、顔を見合わせた。

耐えられないくらい時平を求めている自分と比べて、時平が平気なのが恨めしくなった浄見は少し甘えた声で

「今日はこのまま寝てしまうの?」

と呟いた。

時平はニコリと微笑んで

「このままじゃ嫌なの?」

と意地悪く言うので浄見は少しすねて

「嫌じゃないです。おやすみなさい」

といって仰向けに寝がえり、無理やり目を閉じ眠ろうとした。

「嘘つき」

と時平が身をおこし、浄見に覆いかぶさるようにして口づけた。


夜はまだ始まったばかりだった。

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