EP249:伊予の事件簿「虎斑竹の花(とらふだけのはな)」 その6
「そんな顔で泣いてたら、あきらめきれない。
兄上のことを無理して忘れなくてもいい。
義姉上たちなんて放っておけ!好きに嫉妬させればいい。
伊予が辛い思いをすることはない。
離縁させればいい。伊予が奪ってしまえばいいんだ!
・・・・そんなに泣くくらいなら!」
ギュッと締め付けられる
その強さに
安らぎを覚えた。
締め付けられたところが
痛ければ痛いほど
心の痛みが和らぐ気がした。
背中に手を伸ばし
抱きしめ返した。
「ありがとう。もう大丈夫です。落ち着いたから」
腕を緩め、
顔を胸から離し、
親指で涙を拭ってくれた。
兄さまそっくりの仕草で
また
涙があふれた。
次の日の朝、宮中に戻る支度をしてたら、竹丸が駆け込んできた。
「姫っ!!聞きましたかっ?」
えっ?!
どーしたのっ?!!
「何?何も聞いてないわ!!兄さまに何かあったの?」
不安で呼吸が上手くできない。
竹丸がブンブンと横に首を振り
「違いますっ!昨夜、淡竹が四方女の屋敷で刀子で刺し殺されたんですって!!これから巌谷について現場を見に行くんですけど、姫には知らせておこうと思って寄り道しました!」
兄さまじゃなくってホッとし
「わかった。続きは文に書いてちょうだい。宮中に戻るから。」
アレ?と思って
「巌谷さん?についていくの?兄さまじゃなく?」
うんと頷き
「実は、泉丸も昨日、四方女の屋敷に返済額について話し合いに行ったそうです。そこに淡竹がやってきて揉めたらしいです。大内裏で巌谷が若殿に話してるのを盗み聞きしたのでついていくことにしたんです!!じゃあ!」
ヒラヒラと手を振って急いで出ていった。
淡竹が四方女に刺されたの?
淡竹が四方女に銭をだまし取られたとしたら、恨まれて刺されるのは四方女の方じゃないの?
と疑問。
淡竹と四方女が恋人関係で泉丸と四方女の仲を疑ったのなら泉丸か四方女が淡竹に刺されてるはず?
ますます疑問。
なぜ淡竹が刺されたの?
恨みとかじゃなくってこと?
事故とか?
内裏に戻り、一日の女房の仕事を終えると、ほとんどの人が寝静まったシンとした夜になった。
薄曇に隠された月だけがわずかに呼吸しているよう。
自分の房で休もうと御簾を押して中に入ろうとしたとき、影男さんが文を届けてくれた。
結ばれた文をほどき、チラッと目を通すと、竹丸からで思わず
「やった!やっと真相がわかるわ!」
そーいえば茶々にも淡竹について全部教えてあげなくちゃ!
文には
『淡竹の事件について分かったことをお知らせします。
まず、四方女の屋敷を一目見て真っ先に思ったのは
「思ったより質素だなぁ」
でした。
大勢の男から銭をだまし取ってる割には、主殿と厨の二つの殿舎しかなく、主殿の中の調度品も贅沢なものはなく一番安い物を集めたって感じでした。
三人から高級な贈り物をもらったはずなのに、そんなものも見当たらず、簡素な造りの長櫃ぐらいで厨子棚や手箱すら見当たりませんでした。
それもそのはずで、四方女は恋愛下手なモテない貴族男性を狙って文を送り、恋仲になると銭や高級品を貢がせ、そうやって作った銭をぜ~~~んぶ淡竹に渡してたそうです。
四方女は非モテな男性を騙し盗った銭を本命の恋人である淡竹に全部つぎ込んでました。
でも淡竹は淡竹で、五十人もの女性に文を送るやつですから、遊び人でとっかえひっかえ女性を弄んでいたらしいです。
遊ぶ銭が必要なのと、口説くときにちょっとした贈り物をするために銭はいくらでも必要だったそうです。
昨夜起こったことを再現すると・・・・・
昨日の夕方、泉丸が屋敷を訪れ、四方女に三人からだまし取った銭の返済を迫っていると淡竹が忍んできた。
淡竹は四方女が返済を迫られてるのを見て、それ以上、銭を引っ張れないと悟り四方女に別れを告げた。
逆上した四方女が
「あんたを殺して私も死ぬ!」
と淡竹を刺したあと、自殺しようとしたけどしきれなかった。
とのことで、泉丸がそばで一部始終を見てたそうです。』
ここまで読んで
泉丸って割って入って止めることもできたんじゃないの?
ワザと二人のゴタゴタを放置したんじゃ?
と疑ってしまった。
『四方女は自分がモテない男にしてることを淡竹にされていたことに気づいて逆上したってワケです!
淡竹には本当に愛されてると思ってたんでしょうかねぇ?
世の中不公平ですよね~~~!
与えてもらうばっかりの人がどこかにいる反面、奪われるばっかりの人がいるはずですから。』
確かに。
与えられた分は返さなきゃ!
恨まれて殺されても文句言えない!
はぁ~~~。
落ち込むには充分凹み、ため息をついた。
「竹丸から?めずらしく長い文ですね?何て書いてあるんですか?」
まだそばにいた影男さんが話しかけた。
まだいたの?
(その7へつづく)