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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
248/505

EP248:伊予の事件簿「虎斑竹の花(とらふだけのはな)」 その5

竹丸は平然と

「自分のためにお菓子をたくさん買います!あっ姫!何か宮中から美味しいモノ持って帰りました?」


大納言邸で蜂蜜に漬けた白玉のお菓子を竹丸に食べさせ、竹丸が堀川邸に帰るとちょうど日が暮れた。

夕餉を頂き、自分の対の屋で寝る支度をしていると、遣戸(やりど)の向こうから


「伊予、私だ。入っていいか?」


硬くて低い、艶のある声が聞こえた。


ドキッ!

胸が高鳴り顔が熱くなった。


急いで遣戸(やりど)を開けると、忠平様が立っていた。


なぁ~~んだ


やっぱり

そうよね・・・・

兄さまは堀河邸にいるはずだし。

私が大納言邸にいることも知らないし。


アレ?

なぜ忠平様は知ってるの?


「私がここにいることをどうして知ってるの?」


忠平様がニヤッと笑い

「ここも、堀河邸も情報は筒抜けだ。」


上目づかいでジロッと睨み付け

「使用人の中に間者(スパイ)がいるのね?」


目を上にそらし

「使用人の中『には』いない。」


ふう~~~ん。

ま、いっか。

ちょうど話があったし。

「どうぞ」

中へ通した。



忠平様は兄さまに似た、少し彫りの深い目元と、兄さまより少し幅の広い顎をしている。

肌の色も日に焼けた褐色で、笑った時の歯が真っ白なのが目立つ。

健康そうだし力もありそう。


照れくさそうに笑いながら胡坐(あぐら)をかいて座り込んだ。

白湯を注いで差し出す。


グビグビと一気に飲み干す喉元を見ながら

『やっぱり違うなぁ』

しみじみ思った。


「ふぅ~~~!」

一息ついて口元を手の甲で拭う。


「あのぉ、私が大納言様と別れたのは知ってるでしょ?」


忠平様はくすぐったそうに頸をポリポリ掻きながら

「あぁ。知ってるよ。本当だったんだな。」


宮中にも間者(スパイ)がいるの?

もう誰も信用できないっ!!

迂闊(うかつ)に噂話もできないっ!

イラっとした。


「でね、新しい恋人になる人には、妻や恋人がいない人を選びたいの。」


様子を窺うように目を見つめた。


「・・・・どういう意味だ?」


「兄さまは北の方たちと離縁するわけにはいかないし、私が彼女たちを苦しめるのはイヤだから、そのぉ、別れることにしたし、もし次の恋人になる人にも妻や恋人がいれば、横恋慕になって、傷つく人がでてくるし大変でしょ?だから、今、誰のものでもない人と恋愛したいなと思って。」


忠平様が眉をひそめ

「・・・・だから?」


察しが悪いなぁ。

そんな人だったっけ?

ムッとして

「忠平様は、ご正室がいるでしょ?だから、恋人にはしないって決めたの。なので、今まで色々とありがとうございました。」

ペコッと頭を下げた。


忠平様は何も言わず、微動だにせず固まっている。

聞こえているのか不安になって近づいて目の前で手をチラチラと動かした。


グッ!

その腕を掴んで

「以前から思っていたが、お前は随分わがままで自分勝手だな。」


えぇ?

まぁ~~~

そうかな。

甘えられる人にはそうかも。


握りしめられた腕が痛い。

チラッとみると

目が完全に怒ってる。


「それに冷たい女だ。」

言ったきりうつむいて黙り込んだ。


心苦しくなって

「あのぉ~~、だから、これ以上私によくしないでください。お返しもできないまま一方的に好意を受けるのは気が引けるので。」


キッ!と顔を上げ睨み付け

「じゃあ返してくれ!伊予の一晩をくれっ!それでキッパリあきらめてやる!」


腕を振りほどき、こっちもキッ!と睨み返し

「それだけはできません!銭に換算して一生かかっても返します!」


怒った硬い表情が崩れ、泣きそうな顔になった。

「・・・私を見ると兄上を思い出すのか?だから遠ざけるのか?」


ズキッ!

心の中を言い当てられた気がした。


「本当に、忘れたいんです。全て。」


「兄上との過去も?ずっと一緒だったんだろ?忘れられるのか?」


「忘れます。新しい伊予として、過去にとらわれず、生きていきます。もう、大納言邸にも帰りません。」


「上皇のところへ行くのか?他に行くところがあるのか?」


首を横に振る

「いいえ。戻るとしたら、母のところか父の実家です。でも、出来る限り(もみじ)更衣についていくつもりです。」


忠平様が悲しそうに口元に笑みを浮かべた。

「きっと他の誰かの妻になるんだな。お前ならすぐにでも夫が見つかるだろう。兄上にも手が届かないなら、私なんて、諦めるしかないな。だが、友人としてなら時々会ってくれるな?宮中に会いに行く。都で官職を得るように頑張るよ。」


そこまで言ってくれる人はもう現れないかもしれない。

忠平様は本当に愛してくれてるのかもしれない。


だけど、

兄さまにつながる過去は全て消してしまわなくては。

思い出したくない。


例え、それが、一生分の幸せの詰まった過去だったとしても。

この先には真っ暗な絶望しか残らないとしても。

いいえ!

そんなはずない!

まだ若いんだし!

出会いはたくさんあるはず!


もっといい人と出会えるはず!

もっと好きになれる人がいるはず!

気持ちを切り替えなきゃ!!


親指が頬に触れたと思ったら肩を抱き寄せられた。

胸に顔を押し付けられた。

(その6へつづく)

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