EP247:伊予の事件簿「虎斑竹の花(とらふだけのはな)」 その4
「お待ちくださいっ!主は今、来客中でございまして、後でご案内いたしますので」
侍女の困った声。
「うるさいっ!!お前たちのせいで一文無しだっ!!」
「そうだっ!どうしてくれるっ!弁償しろっっ!!」
御簾を押して泉丸が出ていった。
私と竹丸も顔を見合わせウンと頷きあい、急いで出ていく。
こんなに面白そうなこと見逃す手はないっっ!!
竹丸も目を輝かせてる。
廊下に出ると、庭で三人の狩衣姿の男たちが、下から泉丸を睨みつけてた。
「お、お前が責任者かっ!!四方女にとられた銭三千文と唐渡の白粉、袿を返せっっ!!」
「私は四方女に銭四千文と新鮮な魚介類を贈ったぞっ!!四方女が返せないならお前が返せっ!!お前があっせんしたんだろっ!」
「オレは単と櫛と鏡だっ!!銭二千文となっ!!今すぐ四方女にあわせろっ!!」
泉丸は苦虫を噛みつぶしたあと噛み締めたような顔をし
「どうぞ、中で話を聞きましょう。」
私たちはコッソリ御簾の外で隙間から覗き見して話を聞いてた。
彼らの話を要約すると、彼らはまず、恋人を探しに『比翼連理』を訪れ、何度かめぼしい姫に文を送ったけど上手くいかなかった。
三人はいきなり四方女という姫から文を受け取り、『恋人もいないし、イイかな』と思ったから文を返し、その後もやり取りを続けた。
この時点では住所を知らないから『比翼連理』に銭を支払って四方女へ文を届けてもらった。
何回目かの文通で住所を教えてもらえたので、実際に四方女の屋敷に通って恋仲になった。
逢瀬の三度目に四方女は
『お金に困っている。病気の弟がいて治療のための薬代が高くて借金をしたけど返せない』
とか
『母が悪い男に騙され、借金ができた。取り立てに来た男が暴力をふるう。』
とか
『父が死んで収入がなくて借金してしまって困っている』
とかの話を聞かされて、三人は彼女への贈り物とは別にそれぞれ苦労しながら銭を工面して渡した。
にもかかわらず四方女は銭を受け取った次の日から面会を一切断り、腕っぷしの強そうな用心棒が三人に門前払いを食わせた。
四方女が巧妙なのは自分からは持ち掛けず、相手が心配して『力になりたい』と銭の話をするまで
『愛するあなたを困らせたくないわ!心配しないで!自分で何とかします!あなたと結婚するまでには何とかします!借金を返さなければあなたと結婚できないもの!』
と銭をせびる真似は決してしなかったらしい。
三人は情にほだされたのと、早く結婚したかったのとで焦って、それこそ上司や友人に借金してまで四方女に銭を貸したのに、つぎに会いに行ったときには強面の怪力用心棒に追い払われスゴスゴと逃げ帰ったらしい。
で、四方女を仲介した泉丸に怒りの矛先を向けたというわけ。
泉丸は『心の底からお詫びします!』という表情で
「四方女に連絡を取り、話し合い、返済できる額を提示させます。それでもダメなら検非違使庁へ同行します。四方女を詐欺で訴えるんでしょう?ですから、今日のところはお引き取りください。」
となだめて三人は大人しくなった。
そのうちの一人は
「もう一度、四方女と会えればそれでいいんだ。また恋人になってくれれば銭を返せとは言わない」
ポツリと呟いた。
他の二人も項垂れ、意気消沈してしんみりとした雰囲気になった。
肩を落として帰っていく三人を見つめ、竹丸が
「惚れた弱みですかねぇ。」
泉丸が私たちに向かって
「あぁ!まだいたのか!ええっと、淡竹ね、そういえば淡竹は四方女にも文を送っていたぞ。淡竹も四方女に銭をだまし取られたクチか?それとも・・・・?」
険しい表情。
淡竹の似顔絵を見せてもらったけど、茶々が舞い上がるほどのイケメンかな?
キツネ目で眉毛もキリっといい形に整えてるけど、口元はだらしなく緩んでるし、目の焦点が合ってない気がする。
まぁ似顔絵だから本物は分からないけど。
どのみち五十人もの女性に文を送るようなヤツはロクなもんじゃない!!
絶~~~~っ対っ茶々にはダメ!って言わなきゃ!
そうだ!
茶々に見せて上げようっと!
思いついて泉丸に
「四方女の似顔絵を写して一枚下さる?」
お願いして似顔絵をもらった。
三人の男性から金銭をだまし取った四方女にも淡竹は文を送ってるって茶々に伝えて、あきらめさせよう!
四方女の似顔絵を見て竹丸が
「さほどの美女でなくても銭をたんまりとだまし取れるんですねぇ~~~!この四方女に貢ぐぐらいなら・・・」
ニヤリと笑いながら横目で竹丸をチラ見し
「泉丸に貢ぐ方がマシ?」
竹丸はギョッとし
「な、何を言ってるんですか?!せ、泉丸は銭になびくような人じゃありません!」
焦ってる。
「じゃあ誰に貢ぐの?」
(その5へつづく)