EP246:伊予の事件簿「虎斑竹の花(とらふだけのはな)」 その3
間延びした声で御簾をめくって竹丸が入ってきた。
水干、括袴はただでさえダブダブでゆったりしてるから、そうは見えないけど、昔から竹丸はムチムチの『わがままボディ』。
大人になって声変わりし、低くてよく響くいい声になったけど、それ以外は子供の頃と同じ。
目がトロンとした二重で、頭が大きいところも同じ。
幼馴染と言ってもいいから、私にとっては兄さま、乳母やの次に一緒にいて安心できる人。
「そこに座って!」
円座を指さす。
竹丸がヨッコイショと座った途端
「淡竹って貴族の学生のこと知ってる?茶々が付き合うかどうか迷ってるの!」
欠伸をしながら
「ふぅわ~~~ぁ!誰?聞いたことないですよ~~~そんな人の噂は。これで話は終わりですか?じゃあ帰ります。」
立ち上がろうとする。
「ちょっ!!ちょっと待ってよ!淡竹がどんな人かを知りたいんだけど、何か方法を考えてっ!!」
う~~~んと腕を組んで目をつぶって考えてる。
フリ?
眠ってる?
しばらくしてハッと目を見開き
「泉丸の営業する『比翼連理』を訪ねて、淡竹のことを聞いてみましょう!彼らは下調べしてるだろうから、色んな貴族や姫たちの情報を持ってるのでは?」
ナイスっ!!
確かにそーかもっ!!
でも、泉丸って、『牛車の女子』を企んだ黒幕かもしれないし、胡散臭い。
けど、他に方法は無いし・・・・
「そうね!そうしましょっっ!」
いつものように、水干・括り袴を着て、角髪を結った少年風侍従姿で一緒に出掛けた。
『比翼連理仲立ちします 右京一条四坊九町 泉丸』
って名刺をもらったから、住所はわかってるし!
竹丸ももらったらしいけど。
片道七里(4.6km)ぐらいの道のりを歩いた。
「最近、大内裏の竹林で竹の花が咲いたらしいですね。六十年とか百二十年に一度しか咲かないらしいです。竹林一帯が一斉にそろって咲くから不思議なんですってねぇ~~~」
「へぇ~~~!・・・・・」
相槌を打ちながら、『最近の兄さまはどうしてる?』
って聞きたかったけど、ためらっているうちに竹丸が自分から話してくれた。
兄さまは元気で、ちょっと不機嫌なことが多いけど、私が避けてることにハッキリとは気づいてないみたい。
毎日、廉子様の元へキチンと帰ってるって。
ホッとしたような、寂しいような。
泉丸の屋敷は立派な寝殿造りで、東門から侍所へ行くと、その間に大勢の若い男女が並んで順番を待ってた。
竹丸が侍所の縁から御簾のかかった母屋に向かって
「ごめんください~~!あのぉ~~!泉丸と知り合いなんですけどぉ~~!話がしたいんですけどぉ~~!」
大声で叫ぶと、御簾がかかった母屋から侍女がでてきて
「『比翼連理』の仲立ちをお望みですか?それなら外で並んで順番をお待ちください」
「違います~~!泉丸の知り合いです~~!ついでに大納言様の大事な姫君も一緒ですからと伝えてください!」
侍女は不思議そうな顔をして奥へ下がった。
戻ってきた侍女が
「どうぞ」
と上がらせてくれ、私たちは侍女について主殿へ渡った。
侍所の御簾の中を目を凝らしてみると、屏風と衝立と几帳で区切った空間がいくつかあり、それぞれで面接?が行われてるみたい。
主殿に入ると、泉丸がウロウロと歩きながら待ってて私たちを見ると
「よう!本当に来たんだな!恋人が欲しいのか?二人とも?」
手をヒラヒラさせて軽口をたたく。
今日は艶のある黒に金で唐花模様が刺繍されてる水干と揃いの膝下丈の括袴、銀と真珠の耳飾り、後れ毛を頬にたらし、さげみづらで両側に髪を束ねた女性的な装い。
見る度に睫毛の長さが伸びてる気がするのは私だけ?
それとも睫毛を長く見せるモノでもつけてるの?
隣でポカンと口を開けて見とれてる竹丸を肘でつつき、抜け出た魂を体に戻してあげた。
「違うの!淡竹という貴族がどんな人かを教えて欲しいの!友達の女房がその人と付き合っていいかを悩んでるの。」
『座って!』と身振りされ、畳の敷いてある場所に座ると
「ちょっとそこで待ってて。釣書を持ってくる。」
屏風の裏に入り、ガサゴソと書類を持ってきて
「淡竹?あぁ、そいつはやめといたほうがいい!今まで文を届けた女性の数が五十は超えてる。よほどの遊び人だよ!」
その時、庭の方から
「おいっ!!『比翼連理』の主を出せっ!!」
「ここかっ!出てこいっっ!!責任者っ!!そこにいるんだろっ!」
「そうだっ!!出てこいっ!!お前のせいで酷い目に遭ったんだぞっ!!」
口々に叫ぶ男性の声がした。
(その4へつづく)