EP240:伊予の事件簿「糸毛車の女(いとげぐるまのおんな)」 その4
兄さまは硬張った真剣な表情で
「夜な夜な牛車で男を待ち、誰とでも寝るような女子は願い下げだ。もうお前の顔も見たくない」
静かな声で呟く。
耳を疑い、もう一度聞きなおそうと
「は?どういうこと?」
怖い顔で
「だから、私のことは忘れてくれ。恋人関係も解消しよう。」
一言ずつゆっくりと、周囲の人でも聞き取れるように呟いた。
やっと意味が理解できた私は茫然とし、すぐには言い返せなかった。
ボンヤリと兄さまの目を見つめ
首を傾げた
「私のことを嫌いになったの?
・・・・平次兄さま?」
少し慌てたように兄さまが私の口を手で塞ぎ耳元に口を寄せ
「廊下に見慣れない女儒がいた。ここ数日見張られているんだ。どこへ行っても見知らぬものがこちらの様子を窺っている。だから、私に話を合わせてくれ。」
背中から抱きしめられ、ヒソヒソと耳に息がかかる。
『嫌われた!』
ってショックだったのが誤解だと分かりホッとした途端
口を塞がれた指やお腹に回された腕に敏感になった。
ウンウンと頷くと手を口から放してくれた。
話を合わせればいいのね?
でも『牛車の女子』だとは認めたくない!
涙まじりの声でハッキリと
「私はそのような女子ではありません!ですが大納言様が信じてくれないなら何を言っても無駄ね!悲しいですが、お別れしてもいいですわ!ぅっうっうっ」
袖に顔をうずめ泣いてるフリをした。
兄さまは目だけを動かして御簾の外を窺い
「では、これでお別れだ。」
ギュッ!
後ろから抱きしめられた。
顔を動かし兄さまと目を合わせ
『わかった!これからは皆の前で別れたフリをすればいいのね!』
という意味をこめて頷く。
切なげな表情をしたと思ったら
手が衿の下に入ってきた。
は?
誰か聞いてるんでしょ?
何するつもり?
焦ってるとますます手が奥に入り
素肌の胸のふくらみを優しくつつんだ。
人さし指で硬くなった先端に触れる。
快感の刺激が広がり
思わず声を漏らした。
足の力が抜け崩れ落ちそうになると
もう片方の手が素早く袴の脇から裾を払い
衣の中に入った。
腿の間に差し込まれた手の刺激から
逃れようと思わず腰をくねらせる。
追いかけるように長い指が
敏感な部分を刺激し
それに合わせて無意識に喉の奥から声が漏れる。
喘ぎながらやっとのことで
「バカなの?聞こえるでしょっ」
吐息交じりに囁くと
荒い呼吸で
「そう。だから喘いじゃダメだよ」
唇で口を塞いだ。
舌を吸いながら、指を動かすのをやめてくれない。
ダメ!
声を出しちゃ!
我慢するけど
指の動きに合わせて音がし
そこから液体が溢れてるのが
恥ずかしくなった。
動きが速くなり、感度が増し、興奮は高まる。
兄さまの指や波打たせていた動きが止まり
我に返ったように、でもまだ息を切らして
「明日は里帰りしてくれ。噂を流した犯人を捕まえる。」
耳元で囁いた。
まだ恍惚の痺れの中でボンヤリとしながら
ウンと頷いた。
次の日、夕方には大納言邸に里帰りして兄さまからの連絡を待っていたけど全くなし。
影男さんは大納言邸には正面からは入れない。
宮中で大舎人の務めを果たしている。
竹丸は兄さまと一緒かな?
噂を流した犯人を捕まえるって『牛車の女子』を捕まえるっていう意味?
夜中に小路に牛車を止めて、公達を誘い込むって言ってたけど。
ってことは夜も大納言邸で待機してればいいのね?
うまくいけば朝には結果が分かるのね?
日が暮れたので自分の対の屋で寝る支度をしてると、閉め切った遣戸ごしに
「伊予殿?私だ。中に入ってもいいか?」
はぁ?
誰?
流石にこの時間にはよっぽどの関係でないと無理!!
(その5へつづく)