EP233:竹丸と伊予の事件日記「仲立ちの比翼連理(なかだちのひよくれんり)」 その7
*****【竹丸の日記】*****
次の日、内裏から帰ってきた若殿はツヤツヤの肌をご機嫌に輝かせ
「被害者たちに話を聞きに行こう!」
というのでお伴した。
なぜご機嫌?
肌がツヤツヤ?
まぁどーでもいいけど。
被害者に会い
「強姦事件の前に、見知らぬ男性から、住所、名前入りの恋文を受け取りませんでしたか?
そしてそれに返事を書きませんでしたか?」
確信を込めた目付きで見つめた。
被害者は御簾を上げて対面してくれた、ある貴族の侍女だったが、首を傾げ
「ええ。男性の住所、名前入りの恋文なんておかしいなと思いました。
確かに受け取りましたが、見知らぬ男性なので返事は返してません。」
若殿はハッと目を見開いて明らかに驚いたよう。
その後も強姦被害者に数人会って話を聞くことができたが、全員、差出人男性の住所、名前入り恋文を一通以上受け取ったことがあった。
返事は書いた人もいれば書かなかった人もいた。
差出人男性の名前と住所は全員違ってた。
堀河邸に帰ると、侍所で大舎人姿の男が小さな子供を伴って若殿の帰りを待っていた。
この男に身覚えがある!
たしか宇多帝の姫と山中の寺でイチャついてた影男とかいう身辺警護だ!
顔がツンケンしてて見るからに不機嫌そう。
『若殿の敵だ!』
思い込んで睨み付けてるとニコッと愛想笑いを浮かべ
「あんた竹丸さんだね?大納言殿に文使いを捕まえたと伝えてくれ。」
隣で水干、括袴の十歳ぐらいのどこかの使用人かな?という身なりの子供がモジモジとしてる。
影男は子供が逃げ出さないように肩のあたりの衣を掴んでた。
若殿に知らせると侍所に駆け付け
「お前に文を届けさせたのはどんな男だ?」
子供はモジモジしてたが、若殿が銭を一文とりだし握らせると二カッと笑い
「ええとね、キレイな女子みたいな貴族さまだよ!キレイな衣を着てたからわかったんだ!
文をちゃんと届ければお礼に五文くれるというからね!」
「その文使いは一度だけではないな?どこで声をかけられた?」
「僕だけじゃないよ!市で母ちゃんの縫った衣を売るのを手伝っていたら声をかけられたんだ!
他の子も声をかけられて文使いをしてるよ!!」
なるほど!じゃあもしかして!と思いつき
「そのキレイな貴族は耳に金と真珠の連珠の飾りをつけてなかったかい?
束ね髪、または下げみづらで頬に後れ毛を垂らしてなかった?」
子供は三人の大人が注目してることが照れくさいのか、鼻の下を擦り、また二カッと笑い
「うん!丸い珠の耳飾りをしてた!後ろで一つに括った髪型だった!紺の生地に銀の刺繍で模様が入ったキレイな衣だった!」
若殿と顔を見合わせ頷きあった。
あの人だ!!
泉丸こと源香泉さま!
宇多上皇の弟君。
束ね髪から落ちたおくれ毛や金と真珠の連珠の耳飾りが揺れて頬をチラチラ隠す感じとか、まぶたを縁取る長い睫毛がバサバサと音を立てて瞬きする感じだとか、キラめく光を宿す瞳だとか、口角の上がった形のいい唇だとか、とにかく美人だなぁ~~とついつい見とれてしまう人。
その美しさは今も健在かなぁ?
頽廃的な雰囲気もそのままかなぁ?
「泉丸に会いに行くんでしょ?怪しい文使いのために子供を雇ったのなら黒幕でしょう?また新しい商売をしてるに違いありません!」
鼻息荒く主張してみる。
ちょっと楽しみ!!
若殿は肩をすくめ
「そうだな。でも、アレ?影男がここにいるという事は、伊予はどこにいるんだ?宮中だよな?」
影男が
「いいえ。今日は大納言邸に里帰りするように大納言様から言付けを受け取ったと言って内裏を出ましたが・・・・。」
若殿の表情がサッと曇った
「そんな言付け誰にも頼んでいないっ!!まさかっっ!!急ぐぞっっ!」
(その8へつづく)