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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
226/505

EP226:伊予の事件簿「夏草の逢瀬(なつくさのおうせ)」 その5

影男(かげお)さんが真面目な顔になり

「あなたが伊予殿を寂しく(ひと)()させている間、慰める役目が私と上皇侍従殿というわけです。

あぁ、それと、あなたの愛情が重荷になってるとも言ってました。

恋人を増やせば一人に苦しい恋をすることは無いと。」


はぁ?

勝手なこと言わないでよ~~~!

誰が(ひと)()が寂しいって言った?

でも『愛情が重い』は言ったかなぁ。要約すると。


兄さまが私の目を見て怪訝(けげん)な顔をした。

「愛情が重い?苦しい恋をしたくない?だと?」


「違うっ!正しくは、兄さまの重荷になりたくなくて、苦しめたくないの!

だから、気楽につきあいたいな~~とか、大勢の恋人のうちの一人でいたいな~~とか思ったの!」


兄さまは怒りでこめかみに血管が浮き出て

「浄見が大勢の男と遊べば私が苦しまないとでも?」


怒りすぎて浄見って言ってる!!

「違っ!だから、兄さまも、北の方たちやたくさんの恋人たちと均等に遊べばいいでしょ?

私なんて気にかけなくてもいいし、そしたら仕事も頑張れるし!!」


「本心か?」


ウンウンウンウンと何度も激しくうなずく。

って余計(よけー)嘘くさい?!


「私を気にしないで、兄さまの好きなようにして欲しいのっ!!自由にっ!私に縛られないでっ!!」


兄さまは腕を組んで考え込んだ。

しばらくそうしてジッと動かなくなった。


「じゃあ、つまり私は浄見を崇拝する男たちの中で競い合って首位(トップ)に立てばいいんだな?」


えぇっ???

やっと口を開いたと思ったらナニを言うのっ??!!

そんなこと言ってないっ!!


スクっと立ち上がったと思ったら私の前にしゃがみ込み、頬を両手で包んだ。

親指で唇をなぞりながら顔を近づける。


ビックリとドキドキで『ひゃっ!』と声を上げそうになった。

炎のように瞳をキラめかせ

「明日の夜は私に時間をくれ。

イヤでも私を忘れられないようにしてやる。

誰が一番かを思い知らせてやるっ!」

硬くて低い、体の芯に響くような声で呟いた。


唇に触れる親指の感触だけでも、ゾクゾクする快感が呼吸を荒くした。

喘ぎ声が出そうになったころ、スッと手を放し立ち上がり、影男(かげお)さんに向かって

「今日はお前に譲るが、明日は私のものだ。くれぐれも伊予を傷つけるなよ。」


言い放ってサッサと(へや)を出ていった。



・・・・アッサリすぎない?

もっと『ダメだ!』って怒らないの?

『他の男と遊ぶなんて許せんっ!!』って怒り狂わないの?


拍子抜けしすぎてぐったりと肩を落とし、ボ~~っとする。


影男(かげお)さんが口ごもりながら

「では、今日は・・・・」


「今日は帰ってくれる?疲れたからもう寝たいの。」

ため息をつく。


口元に笑みを浮かべ

「では、また次の機会に楽しみましょう。」


何を?

そんな気は今後一切起きない気がする。

・・・・けど


「ええと、そうね。忠平(ただひら)様に返事を書いたから明日届けてくれる?」

さっき返歌を書いた文を手渡した。


その内容は

『夏草の (しげ)れる野辺(のべ)に つく露の かれる間もなく たつ不如帰(ホトトギス)

(夏草が(しげ)野辺(のべ)につく朝露がすぐに乾いて()れてしまうように、夏草が枯れるよりも早く、不如帰(ホトトギス)のようにすぐにあなたは飛び去ってしまうのでしょう?)

って感じかな。


影男(かげお)さんが帰った後、寝床に横になり

物思いにふけった。


明日の兄さまとの逢瀬を今夜の夢でもいいから

早く見てみたい!


そうだ!と思いついて兄さまにも文をしたためた。


『人しれず 逢うをまつまに 恋死なば 何にかえたる 命とかいはむ』


(人知れず逢瀬を待ってる間に、もしも恋しすぎて死んでしまったなら、私って無駄死にしたってこと?)

(*作者注:本院侍従(ほんいんじじゅう)『天徳四年 内裏歌合』)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

浄見のモデルである『本院侍従』がいい感じの和歌を詠んでいたので『おおっ!!』とちょっとテンションが上がりました!

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