EP225:伊予の事件簿「夏草の逢瀬(なつくさのおうせ)」 その4
舌を入れられないように歯を食いしばってると、唇を吸われた。
「んーーーっっ!!んっ!!」
手でバンバン肩を叩く。
「大納言様っっ!!伊予ですか?今っ取り次ぎますから勝手に入らないでくださいっ!!」
桜の焦って上ずった声が聞こえる。
はぁっ??
兄さまっっ??!!
離してよっ!
クソっ!!
コノヤロー!!
手で影男さんの胸じゅうを激しくバンバン叩く。
目の端で几帳がズレるのが見えた。
兄さまが唖然とした顔で私たちを見つめた。
やっと唇を離してくれた影男さんが兄さまの方を向き
「見たでしょう?取り込み中なので邪魔しないでもらえますか?」
睨みつけながら低い声で脅すように呟いた。
兄さまがクルリと踵を返して立ち去ろうとした。
「待って!大納言様っ!」
ピタリと立ち止まった。
けど、後が続かない。
何も考えてなかった!!
どーしよーーー!
何て言えばいいのっ!!
何も思いつかなくて最悪な事を言ってしまった。
「逃げるのっ?!!私の言い訳を聞かなくてもいいのっ!!」
背を向けたまま
「言い訳?があるのか?四郎の次は影男というだけだろ?」
そ、そのとーりだけどっ!!
「そっちだって、廉子様を許したんでしょ?私が悪者になっても別に構わないんでしょっ!!」
横顔だけが見えるようにこちらを向き
「廉子には次こんなことが起きたら離縁だと言い渡した。本人が自分を傷つけただけだから、それ以上のことは言えなかった。」
離縁っ??!!
それはダメっっ!!
官職がなくなっちゃうっ!!
「ダメよっ!!離縁なんてしないでっ!!離縁して欲しいなんて言った覚えはないわ!!」
兄さまが眉をひそめ身体ごとこちらへ向き直った。
やった!!
もう少しっ!!
「じゃあ何を怒ってるんだ?四郎や影男を利用してまで。」
えっ?
利用っ?
嫉妬させようとしてるって思われてる?
確かに、そーかも?
私って・・・・あざとい女っっ??!!
影男さんがニヤニヤしながら
「伊予殿は複数の恋人を持つことにしたそうです。あなたのようにね。」
ちょっ!!ちょっとっ!!言い方っ!!気をつけてよ~~!!
ま、大体あってるけど。
「は?何だそれ?」
兄さまは険しい表情のまま胡坐をかいて座り込んだ。
その動きに合わせて香しい薫物の匂いが漂い、しなやかな無駄のない優雅なその動作や、扇を持つ長い指、薄墨色の涼やかな目元に見とれ、胸が高鳴った。
スッキリとした顎の線と色の薄い、厚みのない唇、なのに口づけのときは我を忘れそうなほど官能的に繊細に動く。
最後に兄さまと口づけを交わしたのはいつ?
思い出すだけで唇が欲しくなり、身体の奥が疼いた。
(その5へつづく)