EP219:伊予の事件簿「密雲の枇杷(みつうんのびわ)」 その5
廉子様の和琴の弦に毒を塗った犯人だと思われても、無実を証明する術もないので、何も言い返せない。
『包みをほどいてもいない』と主張しても証拠がないし・・・・・
顔面蒼白になって唇をかみしめ耐えるしかなかった。
『正室に嫉妬して毒を盛った下賤な、卑しい、浅ましい女!』
そこにいる全員にそう思われてると思うと屈辱と恥ずかしさで胸が痛くなった。
今すぐ逃げ出したくなった。
『冤罪なのにっっ!!』
という怒りより、
『どうしてノコノコこんなところに来てしまったの?!たかが愛人のくせに!!馬鹿な私!』
という後悔の方が先にたった。
うつむいて唇をかみしめ、全身を震わせて屈辱に耐えていた。
冤罪を晴らす方法を必至でグルグル考えるけど何も思いつかない。
情けなくなって涙がこぼれそう!
「よし!じゃあ伊予が犯人かどうかを調べよう。
犯人かどうかは伊予の和琴の音を聞けばわかる。」
兄さまが静かなしっかりとした口調で周囲に言い渡した。
えぇっ?!
そんなことでわかるのっ?
周囲もザワザワしてる。
半信半疑だけど、そんなことで無実を証明できるなら喜んで弾くわっ!!
涙目で兄さまを見てウンウンと素早くうなずく。
「伊予、準備をするから東の対の屋で待っててくれ。四郎、伊予を連れて行ってやってくれ」
忠平様が私に付き添い東の対の屋に渡った。
準備?って何?
ここから主殿で何が行われてるのか、御簾が下ろされたので分からない。
しばらくして侍女が迎えに来たので再び主殿に渡った。
今度は母屋の中の畳の上に見たこともない和琴が置かれてた。
「この和琴で、管掻を弾いてみてくれ。できるな?」
不安を取り除こうとするかのような、一片の疑いも含まない熱い眼差しで、真っ直ぐに目を見つめられた。
兄さまは無実を信じてくれてる!
「はい」
と頷いて和琴の前に座る。
ワケがわからないけど、とりあえず管掻を弾けばいいのね?
それで冤罪が晴れるならお安い御用よっ!!
右手に琴軋(ピック)をはめ、六弦全部を上から一気に弾き、三四弦の余韻だけを残して他を左指で押さえる。
「ジャラランッ!」
今度は逆に下から一気に弾き、同じように左指で押さえる。
「ジャララランッ!!」
左の小指で順番に一弦ずつ弾く。
「ポン、ポン、ポン、・・・」
小指を左側に大きく動かし、弦を弾こうとしたとき
ガッ!!
兄さまが横から腕を掴み、動きを止めた。
(その6へつづく)