表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

216/526

EP216:伊予の事件簿「密雲の枇杷(みつうんのびわ)」 その2

当日、堀河邸に牛車が到着すると降りるなり忠平(ただひら)様が待っていた。


廊下を足早に渡って来たみたいなのに、私とまっすぐ目を合わさず、チラっと横目で見てすぐ視線をそらし

「よう!来たな」

ボソリと呟く。


私が横長の大きな包みを持ってるのに気づき

「重いだろ?持ってやる」

ラッキー!ってすぐに渡した。


「これから廉子(やすこ)様に挨拶がてらそれをお返ししにいくんだけど・・・・」

自分の和琴(やまとごと)は牛車に置いてあるのを侍女に宴の場所に運んでもらった。


挨拶しに行くのに一緒について来てくれないかな~~~?!

一人じゃ心細いなぁ~~~~!

お目にかかるのも初めてだし・・・

期待しつつ忠平(ただひら)様の目を見る。


懇願の目に気づいたらしく、呆れたような表情をしたけど

「ついていってやるよ。

廉子(やすこ)様は北の対の屋にいらっしゃる・・・・って知ってるか。」


フンッ!!

知ってますよ~~だ!

『北の方』ですものねっ!!

ちょっと頬を膨らませてムクれた。


廊下を渡り、北の対の屋の御簾の前につくと静かに座り


ふぅ~~~~~~。

大きく息を吐いて気持ちを落ち着ける。


北の方かぁ~~~

私のこと嫌ってるだろうなぁ~~~!

イキナリ『泥棒猫っっ!!』とか怒られたらどうしよ~~~!


緊張のあまり少し震えた声で御簾の中に話しかけた。

「伊予と申します。

宮中で(もみじ)更衣にお仕えする女房をしております。

今日はお招きいただいてありがとうございます。

宴の始まる前に、廉子(やすこ)様にご挨拶をと思いまして、それと、先日お借りした和琴(やまとごと)をお返ししたく参りました。」


・・・・・

返事を待ってるけど何も答えてくれない。

・・・・・

沈黙の時間がたっぷりあって、

『もしかして誰もいないのかしら?』

と疑い始めたころ


忠平(ただひら)様が後ろで声をかけた。

「あの~~。義姉(あね)上?いらっしゃいますか?

例の『伊予』が挨拶に参りましたが。

それに、お借りしたものをお返ししたいと申しております。」


御簾の中で誰かが身じろぎする気配がし、鈴を鳴らすようなキレイな声で

「はい。聞いておりますわ。

松、和琴(やまとごと)を受け取りなさい。」


年配の侍女が御簾を押して出てきて、忠平(ただひら)様から包みを受け取った。


廉子(やすこ)様が

「まだ宴まで時間があります。

もう少し東の対の屋で待っていて頂戴ね。

・・・・あなたが、伊予さんね・・・・?」


「は、はいっ!そうです!よろしくお願いしますっ!!」

ビクッ!と(かしこ)まって、床につくかと思うほど低く頭を下げた。


御簾の中は暗いので明るい外からはよく見えない。

なので表情はわからない。


廉子(やすこ)様の姿は前に一瞬、牛車の(すだれ)が揺れて浮いた隙間から見たことがある。

確か私よりも小さい、幼い雰囲気の方に見えた。

顔もちょっと私に似てた。

お声も可愛らしいし、兄さまが堀河邸にちゃんと帰る気持ちもわかる。

多分・・・『私の次に!』一番愛されてらっしゃる。

と思いたい。


ご正室で既に御子様が三人、なので、どう考えても負けてる!という現実はさておき。


以前、兄さまは自分が体調不良になるような細工を薫物(たきもの)にされて、衣に焚き染められても、廉子(やすこ)様をかばった。

それぐらい二人の絆は強い。


「浄見が望むなら妻たちと離縁する覚悟がある」

って兄さまは言ってたけど、本当に口に出してみたらどうなるかしら?

案外『無理だ』って言いそう。


私だって兄さまを独占したいっ!

廉子(やすこ)様は今までずっと独占してきたんだからもう手放してもいいでしょっ?!!!

・・・でも、何年後かに同じことを別の女性に言われれば、すんなり手放す?

やっぱり廉子(やすこ)様は私に怒ってる気がする。


考えてもどーしよーもないことをイロイロ思い(わずら)った挙句、『はぁ~~~~』とため息をつきながら廊下を渡り、東の対の屋で宴が始まるのを待つことにした。


東の対の屋で用意された畳に座り、脇息(きょうそく)にもたれてぼんやりしてると、忠平(ただひら)様が入ってきて目の前にドカッと座り

「伊予!枇杷(びわ)を食べるか?()いてやる!」


赤っぽい黄色の(しずく)型の小さい果実を持ち、指で皮をむき、皮と同じ色の実を露出した。


無邪気にほほ笑みながら

「んっ!!!」

とその手を私の口の前に差し出すので『口を開けろ』という意味だとわかったけど、


「すみません。私、枇杷(びわ)を食べると体調が悪くなるんです。だから食べないようにしてるんです。」


申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら断った。

(その3へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ