EP215:伊予の事件簿「密雲の枇杷(みつうんのびわ)」 その1
【あらすじ:時平様のご正室・廉子様から合奏の宴へ招待を受けた。ついでに愛用の和琴を貸してくださるというけど、ビビりすぎて使えない!横恋慕を責められると後ろ暗いので、宴で濡れ衣を着せられて案の定パニック!忠平様の鋭い指摘に足元グラグラの私は、茫然として制御不能に自失する!!】
今は、899年、時の帝は醍醐天皇。
私・浄見と『兄さま』こと大納言・藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。
私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。
何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。
その罪とともに全ての人を地上から洗い流してしまおうとするかのような大雨が一日中降り続き、
殿舎じゅうの柱や床の木が雨を吸い込み重くなった気がした。
雨がやみ、陽が差した次の日、やっと地面から水が引いた。
活き活きとした植物たちに励まされ、鬱々とした気持ちを切り替え宮中で女房の仕事をしていると、大舎人の影男さんが文とともに大きな包みを運んできた。
「これをどうぞ」
絹の布で包んだ、六尺半(195cm)はあろうかという細長い、幅は一尺(30cm)、高さは二寸(6cm)ほどの包みを横抱きに抱えるようにして渡された。
重さは同じ大きさの木の板より少し軽い。
それを一旦廊下に置いて文を開いて読んでみる。
『三日後、堀河邸で人を集め、和琴を演奏したり、お酒を嗜んだりする宴を催して遊びたいと思っています。
そこで、伊予さんにも是非、一曲演奏していただきたいのです。
まずは一人ずつ演奏した後、二人で合奏してみません?
殿の一番のお気に入りの女房であるあなたは、きっと詩歌管弦に長じていらっしゃると存じます。
わたくし愛用の和琴をお貸ししますので、その日までこれで練習してくださいな。
藤原 廉子』
何コレ?!!!
ビックリして影男さんに
「堀河邸で和琴を演奏しましょうですって?!!
きっと上手でしょうねって、廉子様に圧力掛けられてるんですけど!!!」
焦りながら愚痴る。
不愛想な三白眼のまま肩をすくめ
「それは、練習するしかないでしょう。
じゃあその包みは和琴ですね。」
こればっかりは人に頼れず自分で練習するしかない!けど・・・・・
行かないってゆー手もありっちゃあり?!
う~~~ん、と悩んで
「欠席とかしたらどうなると思う?」
影男さんが目を細め、冷た~~~い横目で見て
「真正面から戦わずして『正室』に敗北を認めるんですか?」
煽られる。
べ、別にっ!!
これで戦うワケじゃないし!!
ってゆーか負けてもいいしっ!!
煽られてイラっとしたけど、敵前逃亡はやっぱりカッコ悪いかなって思って
「いいわよっっ!下手くそだけど堂々と乗り込んでやるっっ!!」
啖呵を切って
『是非伺います!』
って返事を届けてもらった。
でも、和琴は自分のもので練習しよう!
廉子様のを壊したら怖いし!!
付け焼刃で二日間、恥をかかないように一応練習を頑張った。
(その2へつづく)