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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
214/505

EP214:伊予の事件簿「取り替えの春霞(とりかえのはるがすみ)」 その7

(うつむ)いていた顎を掴み顔を上に向かせ

顔をよく見た父さまがハッと驚いたあと、眉をひそめた。


「伊予・・・か、先ほどの。なぜそんな格好をしておる?」


茶々(ちゃちゃ)は恥ずかしそうにモジモジしながら

「ええと、あの~~~、実は、こうして時々侍従に変装して、大納言様と洛中(らくちゅう)を歩いております。

 女子(おなご)の姿よりも、身動きがしやすいのです。

 今日もこのあと、市へ出かけようと二人で約束しておりまして、対の屋をお借りして着替えました。

 警備の下人に勘違いさせてしまい、上皇様には御見苦しいところをお見せして申し訳ありません。」


見事な返事(ナイスフォロー)!!!

茶々(ちゃちゃ)!ありがとっっ!!


父さまは(あき)れたようにフッと息を吐き、扇で膝を打つと

「ハハハっ!!もうよい!伊予を放してやれ!調べるのは男だけでよいっ!!

 わしはもう帰る。忠平(ただひら)、あとは頼んだぞ!」


わーーーい!!

茶々(ちゃちゃ)の活躍で伊予が男装してる既成事実もできたし、私の今後の活動の自由度は格段に上がる!!ハズっ!!


父さまが廊下を渡りながら、(ひそ)かにほほ笑みながらそばについていた兄さまに向かって


春霞(はるがすみ)が晴れたかと思ったんだがな」

ボソリと呟いた。


兄さまはまだ明るい空を、目を細めて見上げ

「こちらからは朧月(おぼろづき)(かす)んで見えても、かぐや姫は、明るく澄んだ月の下できっと幸せに暮らしているでしょう。」


「フンッッ!!

 お前のその態度はまだ信じられんっっ」


悔しそうに呟いて父さまが帰っていった。


私と茶々(ちゃちゃ)が入れ替わった真相は、忠平(ただひら)様が北の対の屋で私を逃がしてくれるついでに、念のため茶々(ちゃちゃ)と衣を交換し、私を先に牛車に乗せたということ。

いったん違うと分かった伊予をもう一度調べようとはしないから、私が伊予に戻ることが一番安全との判断で。

茶々(ちゃちゃ)はわざと下人に捕まり、私だけでなく伊予も、男装して出かけるような女性だと父さまに信じ込ませることができた。


牛車に隠れてただけの私は茶々(ちゃちゃ)の活躍を後になって聞き、感謝でいっぱいになり

「ありがと~~~~っっ!!」

茶々(ちゃちゃ)の手を握りしめ、ブンブン振りながら言うと

「怖かった~~~~!でも楽しかった~~~~っっ!!上皇様にもはじめてお目にかかれたしっっ!!」

面長でほっそりとした顔の扁桃(アーモンド)形の目に涙を浮かべながら興奮してた。


茶々を朱雀(すざく)門で下ろし、大納言邸に向かった。

到着し、牛車から降りると忠平(ただひら)様がギュッと腕を掴み、私を引き留めた。


「お前の本当の名を教えてくれないかっ?!!伊予じゃないんだろ?」

真剣な目で見つめる。


う~~ん、何て言えばいい?と少し考え

「・・・・お分かりになったと思うけど、私と兄さまには長い過去があります。

 その過去がなければ、もしかしてあなたとの事を・・・

 いいえ。やっぱり考えられないわ!

 あなたにとって私は伊予なんです。

 初めて出会ったのは伊予なんですから、伊予のままでいいと思いません?」


忠平(ただひら)様は兄さまによく似た薄墨色の端正な目元をひそめた。

内面の苦渋が伝わり、思わず手を差し伸べて苦痛を(やわ)らげてあげたい気持ちになった。


吐き出すように

「もし兄上と境遇を取り替えることができるなら、上皇に逆らってでも今すぐお前を堂々と妻にする!」


黒い影が横からヌッと私の前に立ちはだかり忠平(ただひら)様を(さえぎ)った。


「そうしてお前と一緒に伊予をお尋ね者にし、一生不幸にするつもりか?」


兄さまの詰問に一瞬ひるんだあと


「兄上こそ一生隠し通せると思ってるんですかっっ?!!」


淡々と

「機が熟すのを待っている。

 上皇を権力から排除できれば安全は確保できるはずだ。」


忠平(ただひら)様がハッと驚愕(きょうがく)

「まさか、そこまで考えているのか?私が裏切らないとでも?」


「したいようにすればいい。お前がどうしようと私は意思を曲げない。」


しばらくにらみ合っていたけど、忠平(ただひら)様がフッと笑みを漏らし

「わかったよ。思ったより根が深そうだ。

 伊予また逢引き(デート)しような!」

手を振り(きびす)を返して立ち去った。


兄さまの言葉に急に不安がこみ上げ、背中にギュッと抱きついた。

お腹に回した私の手を握り


「大丈夫。

 私の中の迷いという(かすみ)はすっかり晴れている。」

決然と呟いた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(かすみ)(きり)(もや)も結局、雨粒の大きさだけの違いで、生成条件は同じなんですよね?確か。

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