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Ep21:番外編 右大将物語 ①丹後

<Ep21:番外編 右大将物語(うだいしょうものがたり)丹後(たんご)

時平は浄見を皇太后の刺客から救った直後、廉子(やすこ)女王(仁明天皇の皇孫で、本康親王の娘)を正室として娶った。

これは内心の焦りを打ち消すためだった。

このころから徐々に浄見に会いに行かなくなった。

浄見が子守が必要な歳でなくなった事と、仕事が忙しくなった事、自分の子が生まれた事、を自分自身に理由づけていた。


浄見から何かにつけて文は届いたが、時平は忙しいを理由に粗略にしていた。

893年、浄見から

『兄さまが高位に叙される風景を夢見ました。お慶び申し上げます。父さまと兄さまのご身分があまりにお高いことを知り驚きました。』

という文を受け取った直後、時平は中納言兼右近衛大将に任ぜられ右大将と呼ばれた。

浄見の予言が正確であることに、時平はいまさらながら驚いた。

浄見の手蹟(てせき)がみるみる上達していることと、自分に似ていることに少し嬉しさを覚えた。

昔、習字の手本を書いたことを思い出した。

同時に愛らしい表情や、すねた顔や、無邪気な寝顔を思い出し、自分がまだ、浄見に特別な感情を抱いているのを意識した。

我が子に対する愛おしさとは明らかに違った感情だった。

この感情を心の奥に(ひそ)めるべきだと思った。

浄見の事を完全に忘れようとした。

幸い宮中には遊び相手を探している年頃の女房が沢山いて女性には不自由しなかった。


ある日の夕時、清涼殿から弘徽殿にむかう内裏の庭を歩いていると、弘徽殿に向かう廊下に白菊の鉢を運ぶ女房がいた。

その女房が時平に向かって

「右大将殿、この白菊きれいでしょう?」

と言った。時平は

「そうですね。でも、私は野山に咲く小さな菊のほうが好きですね。」

と言った。女房は

「こちらにいらしてよく見てごらんなさいな。兄さまが丹精込めて育てたものですのよ」

と言った。時平はどきりとして、何かに引かれるように廊下に上がった。

女房が、

「ね、近くで見ると素敵でしょう」

と言い、時平はその女房が十分な大人の女性であることを確認し、目を見て

「そうですね。近くで見たほうが、あなたは美しい」

と言った。女房は少し顔を赤らめ

「ほほほ、右大将殿はお上手ね」

といって、二人は房で話すことにした。


女房は名前を丹後といった。

時平は実の妹とは遊んだ記憶もなく、浄見と過ごした時間のほうが長かったので、普通の兄妹がどんな風に過ごすのかに興味を持った。

「兄上と仲がよろしいので?」

「幼いころに母を亡くし二人で過ごす時間が、長うございましたから。」

「ほぅ。兄上とはどんな風に過ごされたのですか?」

「海に潜ってサザエなどの貝をとって市へ売りに行ったり、庭の柘榴(ざくろ)や柿を採って市に売りに行ったりしましたわ」

「見かけより活発な幼少時代ですね」

「そうですのよ。体中ひっかき傷だらけですわ。ほほほ」

「兄上は今どうしてらっしゃるのです?」

「兄は丹後介を受領(ずりょう)いたしまして、元気にしております。」

「仲がよろしかったのならたびたびお会いになりますか?」

「兄妹と申しましても、兄は妻を取りましたし、私が世話をする必要もないので、さほど行き来はございません。」

「そうなのですか。」

時平はそういって、普通の兄妹は長く一緒に時を過ごしても、やはりお互いにさほど情が湧くものでもないと思った。

『片時も忘れられない』などは起こりえないのだと思った。

やはり、自分は異常なのだと痛感し、何とかしなければと

「今宵はともに過ごしてもよいですか?」

と時平が言うと、丹後は

「まぁ!体の傷を確認なさりたいの?」

と少し照れながら言い、時平は

「私の心の傷を忘れさせてほしいのです。」

と硬い表情で言い、二人は関係を持った。


時平は行為の前後で自分が何も変わってないことに気づいた。

相変わらず浄見を忘れていないし、思い出すと苦しかった。

浄見を忘れるためにはどうすればいいのだろう?

時平は自分を夢中にさせてくれる女性を探さねばならないと思った。

藤原時平が右近衛大将で中納言(検非違使別当・左衛門督・春宮大夫を兼任)だった893年~896年(時平22歳~25歳、浄見10歳~13歳)までの出来事を「右大将物語」として番外編を書きます。<Ep8:白玉か露か>のはじめの方です。

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