EP207:伊予の事件簿「妖かしの醤(あやかしのひしお)」追記
「妖かしの醤(あやかしのひしお)」のストーリーは『その9』で完結しており、以下は付け足しです。
R15?R18?でしょうか?ご不快な場合は、無視していただけますと幸いです。
その夜、兄さまは美蘇子を検非違使庁に送り届けた。
自分の対の屋で待っていたけど、真夜中を過ぎても来てくれる気配がなかった。
『影男さんのことをまだ許してくれていないのかも』
ため息をつく。
遣戸を閉め、寝る準備をしていたら
「浄見?起きてるか?私だ、時平だ。」
ドキッ!と胸が躍り
慌てて遣戸を開け、兄さまが入るなり、思わず胸に抱き着いた。
兄さまの体臭と香が混ざった、昔から大好きな匂いを吸い込む。
ゆったりとした衣の下に硬い胸板を感じながらギュッと抱きしめた。
胸に頬を押し付け
「来てくれたのね!
嬉しい!
大好きよ・・・・時平様」
素早く両手で顔を掴まれ上を向かされた。
噛みつくように唇を吸われ、舌が口の中に入る。
何度も舌を吸われ、歯や舌で情熱的に愛撫された。
熱い想いが流れ込む。
快感で麻痺する。
胸の高鳴りと、激しい口づけに
息苦しくなり、喘ぎながら唇を離した。
兄さまは苦しそうな表情で
「たった一言で我慢できなくなるなんて・・・・」
私はふぅっと息を吐き、呼吸を整えた。
上目遣いで
「もう怒ってない?許してくれた?」
甘えるように呟く。
親指で唇をなぞりながら
黙ったまま見つめる。
「どうしてそんなに怒るの?
好きなのは兄さまだけって知ってるでしょ?」
すねた声で言うと
「影男も好きだろ?」
「その『好き』じゃないわ!」
兄さまはもっと苦痛の表情を浮かべた。
「・・・・わかってるよ。
私がおかしいんだ。
浄見の全てが欲しい。
髪の毛一本すら他の奴に渡したくない。
自分でも異常だと思う。
だからやめたいんだ。こんなことを考えるのは」
嬉しくて胸が苦しくなった。
兄さまは不機嫌そうに
「浄見は違うだろう?
・・・・不公平だ。
浄見が望むなら妻たちと離縁する覚悟なのに
恋人たち全てに絶縁を言い渡してくれと言われればそうした。
子供たちとだって一生会わないでくれと言われればそうするだろう。
なのに、浄見は私に何も望まない。
恋人ができてもさして気にしてないように見えるし
口ではそういっても、本当に嫉妬してるのかどうかもわからない。
他の男に泣きつくぐらいだからな。」
ムッとして
「だって!口うるさく責めれば、疎ましくなって嫌いになるでしょ?
嫌われるぐらいなら我慢する方がマシだもの!
嫉妬深い女なんて男の人は誰でも嫌いなハズよっ!!」
兄さまは瞳をキラめかせ
「試しにしてみればいい!
それぐらいのことで本当に嫌いになるかどうか。
嫌になるほど責めてみてくれ!
その言葉を全部、愛の言葉だと解釈するから。」
はぁ?
バカなの?
「そんなこと・・・・
兄さまを独占なんてできないわ!
他の人に迷惑だし、わがままなやつだと思われたくないもの!」
はぁ~~~とため息をつき
「だから・・・不公平なんだ。
私は浄見を独占したい。
影男はもちろん四郎とも竹丸とも二人きりで会わないでほしい。
いつ好きになるかもわからないからな。
浄見はそうじゃないんだろ?
私が誰と二人きりでいても責めないし平気な顔をしてる。
他の女性に何もする気が起きないのは
浄見が嫉妬しないからだ。
嫉妬しないなら他の女性を抱く意味なんてない。」
ゆっくりと手を伸ばし
兄さまの頸に腕をからめ
微笑んで見つめた。
こんなにも愛されてることが嬉しくて
「兄さまは私のものね?」
冗談ぽく言うと
ため息交じりに兄さまが
「十六年前から、ずっとそうだ。」
かすれ声で呟いた。