EP205:伊予の事件簿「妖かしの醤(あやかしのひしお)」 その8
「はい!少々お待ちを!」
美蘇子が素早く遣戸を開け兄さまを引き入れた。
兄さまが入ってくるなり
「う~~~ん・・・・」
呟きながら美蘇子の腰に抱き着き、倒れこんで押し倒した。
はぁ?何やってんの?私じゃないって気づいてないの?
バカじゃないのっっ!
拳をギュッと握りしめる。
美蘇子にのしかかった兄さまが、モゾモゾと手を動かし、腰紐をほどいてるように見えた。
隣で見ている年子様もゴクッと息をのみ身体をこわばらせている。
ってゆーかノゾキ見?
フツーにドキドキするんですけど?
いやっ!そーじゃなくっ!
兄さまのバカっっ!
誰でもいいのぉ~~~?!!
泣き出しそうになりながら目を離せずにいると
兄さまが苛立ったような声で
「あぁっっ!もういいっ!そうだ、伊予、いつものアレをしてくれっ!」
はぁ?
何?何のこと?
いつも何してたっけ?
少し考えこむけどサッパリわからず
「ほら!アレだよ、私の袴を下ろして・・・・」
はぁ?
マジ何言ってんの?
そんなこと!!したことないでしょっ!!
真っ赤になりながら焦ってると年子様が白~~~い、冷た~~~い目で私を見つめる。
『知りませんっ!』
首を横にブンブン振る。
兄さまが起き上がり、胡坐をかいて座り
「さて、冗談はさておき、美蘇子、座ってください。
ちゃんと話しましょう。
几帳の陰で覗き見している者たちもここに出てこいっ!!」
私たちに向かって凄んだ。
オズオズ陰から出ていき、兄さまたちの前に年子様と二人で座った。
・・・でもまぁ、伊予って呼んでた時点で兄さまが私じゃないって気づいてたのは知ってたけど。
二人きりの時は浄見って呼ぶし。
兄さまが険しい表情で
「では、役者が揃ったところで『あやかしのひしお』の原因について話しましょう。
まず『あやかしのひしお』を食べた人々の間で、幻覚や妊婦の流産、そして繰り返し食べたくなるという依存症状が起きたことはご存じですね?」
美蘇子を睨み付けた。
「あなたはその原因を知りながら、儲けのためにそれを放置していました。検非違使庁に通報します。」
身体に害があると知っててそのまま販売し続けたなら悪質よね?!!
「原因かわかったの?発酵のときに麹から出た毒?それとも材料に問題があったの?」
(その9へつづく)