EP204:伊予の事件簿「妖かしの醤(あやかしのひしお)」 その7
兄さまが睨みつける私の目を気にして(?)、美蘇子を声が聞こえない場所に連れていき、二人でヒソヒソと話し込んでた。
何よぉっっ!
感じ悪いっ!!
そして、一番腹立たしいことに、なぜか美蘇子が私と忠平様と一緒に牛車に乗り、大納言邸へ帰った。
美蘇子いわく
「大納言様に『あやかしのひしお』を味見していただくとともに、新作醤開発費用への出資を北の方とともに考えてくださるとの事で、大納言邸に伺いご相談することになりました。」
大納言邸につくと美蘇子は今度は年子様とヒソヒソ話した後、二人で厨へ向かった。
多分、夕餉の献立に『あやかしのひしお』をどう使うかの相談だろうけど。
何か企んでそうで怪しいのよねっ!
さっきの兄さま誘惑といい胡散臭い人っ!
醤開発の苦労に同情してたのが、すぐに敵視に変わってしまった。
私と兄さま、年子様、忠平様に加わって美蘇子と夕餉を食べたけど、『あやかしのひしお』はどこにもなかった。
出資の話も出てたけど、兄さまが最終的に決断したという言葉もなかった。
ただ兄さまと忠平様はお酒を飲んでいたけど、いつもらしくなく、真っ赤になるまで飲んで酔っ払って、チラチラと私を見てはニヤケてた。
夕餉の片づけが終わって美蘇子が帰るのを見送ろうと車宿まで行こうとすると、年子様に引き留められた。
「ねぇ、伊予、美蘇子がね、殿の恋人になりたいと言ってきたの。
そして誘惑してもいいか?ですって。
どう思う?」
はぁ?
何言ってるの?
何を考えてるのか理解できず
「あのぉ~~~、年子様は嫉妬なさらないんですか?殿に恋人が増えることに抵抗がないんですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「でもまぁ、事前に許可を求めてくるところなんて可愛いものよ!
誰かさんみたいに裏でコソコソされるよりはよっぽど気持ちがいいわ!
それに美蘇子の目的はハッキリしていて、殿に醤開発費用を援助してほしいとのことなの。
ただでというわけではなく、自分さえ身を切って銭と引き換えてもらえばいいとの考えで、ある意味立派だと思ったのね。」
それなら真正面からその熱意を伝えればいいじゃん!!
と思ったけど、ムリだったからそういう作戦?
「まだ若いのに以前の恋人との間の子供を流産したらしいの。それだけでも気の毒でねぇ。」
それは本当にお気の毒だと思うけど・・・
でもぉ・・・・・
ためらってると
「伊予は気にならない?殿が本当に自分だけを愛しているのか?
もし伊予のフリをして美蘇子が伊予の対の屋で待っていても殿が騙されなければ、それこそ本当に伊予だけを愛してるという証明になるでしょ?」
悪魔のささやき・・・?!
それはっ!!
是非試してみたい!!!
う~~~~ん。
「でもぉ・・・・すぐにバレると思いますけど・・・」
「大丈夫よ!殿には媚薬を使ったのよ!フフフ!
さぁ!じゃあその袿を美蘇子に貸してあげて頂戴!
あなたは私の別の衣を着なさい。
あなたのだと匂いで潜んでるのがバレるかもしれないでしょ?」
年子様が潜んでるのはバレてもいいの?
ってゆーか盗み見するの?!!!
まぁ・・・・でないと分からないしねぇ。
年子様に急かされ渋々着替えた。
私の対の屋で年子様と几帳の陰に隠れた。
美蘇子は褥を敷いた寝所で私の袿を着て座って待っていた。
準備万端!!さぁいつでも来いっ!!
言いたいところだけど、
『もし兄さまがコロッと騙されて、目の前で美蘇子とアレしたらどーしよーー!!』
とか
『ただでさえ嫌われかけてるのに!!』
とか
『騙すのはやっぱりちょっと心苦しい』
とか
ドキドキハラハラソワソワして年子様と固唾をのんで待ってる。
そこへ遣戸の向こうから
「私だ、時平だ。入ってもいいか?」
呂律の回らない声が聞こえ、何も知らない、ベロベロに酔っぱらった兄さまがやってきた。
(その8へつづく)