EP203:伊予の事件簿「妖かしの醤(あやかしのひしお)」 その6
その女性はよく見ると切れ長な目に長い睫毛が美しいだけでなく、高いシッカリした鼻と、形のいい唇は、かなりの美人。
「私たちの『あやかしのひしお』という商品に何か問題があってお調べになっていると聞きました。
何を調べたいんですか?
人気の商品だからといって、お上に咎め立てされることは何もしてませんわ!
どこでもお調べになっていただいて結構です。」
キッパリと言い放った。
兄さまがニッコリと微笑み
「あなたが美蘇子さんですね?この醤工房の代表者の?
ではお言葉に甘えて、調べさせてもらいます。
まずこの醤樽を上から見せてもらえますか?」
梯子が用意され、樽に立てかけられ、一人ずつ順番に中を見せてもらった。
茶色いブツブツした液体と固体との間のような醤が樽の表面を覆っててその下は見えなかった。
兄さまは混ぜてもらって中を見せてもらってたみたい。
「では次は材料を見せてもらえますか?」
美蘇子はにこやかに頷き先導して歩いた。
蔵を出てその裏に回ると、正倉のように高床の倉が数戸あり、梯子をかけて一つずつ見て回ることになった。
一倉目は米俵が置いてあり、兄さまは
「中の米を見せてください」
美蘇子が取り出し器に入れて見せた。
二倉目は麻袋のなかに麦が入ったのが数袋あり、大豆が入ったのが数袋、塩が入ったのが一袋あった。
それぞれ袋の中を見せてくれ、大豆、塩は普通に見えた。
普通の麦が入った袋が数袋あり、最後の袋に入った麦の穂には長くて一寸(3cm)ぐらいの黒い角が生えてて
『えぇ~~~?何?気味が悪い!』
とちょっと引いた。
麹も見せてもらえることになって、蓋の付いた壺に白い炊いたご飯にうっすらと白い膜のような黴?がついて覆ってた。
「塩切り麹です。他の壺も同じです。乾燥麹もあります。」
兄さまはいちいち全てを見せてもらってた。
穀物倉をでて醤蔵の見えるところに戻り、兄さまが蔵を見ながら
「三棟すべて『あやかしのひしお』ですか?」
美蘇子は少し緊張した面持ちで
「いいえ。一番西にあるのは研究のためにいろいろな事を試している蔵です。」
兄さまは美蘇子をジッと見つめ
「その中から商品になってるものはありますか?」
美蘇子は首を横に振り
「ありません。試行錯誤中のものばかりです。
新しい醤を一つ作りだすのでも大変な時間と労力と経費がかかります。
『あやかしのひしお』の売れ行きがよくてやっと何とかなっていますの。」
確かに~~~!
材料も無駄にするかもしれないし、温度や湿度の管理、工程、再現性、安全性、全てを考慮してたら大変!
その努力には頭が下がる!
銭がいくらあっても足らないでしょうねぇ~~~!
しみじみ苦労を想像して(?)かみしめた。
美蘇子が急に艶めかしく首を傾げ兄さまの肩に手を置き
「大納言様にはぜひお願いしたいことがありますの」
鼻にかかった甘い声で囁いた。
はぁ?
何してんの?!!!
誰の目の前で誘惑してるのっっ???!
思わずブチギレそう!!
(その7へつづく)