EP200:伊予の事件簿「妖かしの醤(あやかしのひしお)」 その3
忠平様が御簾の下をくぐらせた小箱を手に取って開けてみると、綿の上に十粒ぐらいの様々な大きさの真珠があった。
大きいものは直径が三分(9mm)ぐらいあった。
「すご~~~い!!!キレイっ!!」
表面に貝殻の内側のような白くてキラキラとした光りを反射する層がある。
「加工して巾着につけたり、飾り櫛につけたり、帯飾りにあしらうといい。螺鈿が好きなら気に入るだろうと思って。」
『はぁ~~~~!!』
ため息をついた。
「でも、こんなに高価なものは頂けません!今までのお返しだってしきれてないのに!」
だんだん贈り物が重荷になってきた。
求婚する貴族達に平気でムチャクチャな要求ができるかぐや姫の厚かましさが羨ましい!!
あんなことすれば罪悪感で死にそうになる!!
「本当に、お返しできませんので、こんな贈り物はやめてください。」
ボソボソと呟いた。
忠平様は悲しそうに眉根を寄せ
「伊予の喜ぶ顔が見たかっただけなんだ。今の私は伊予が喜ぶことを考えるのが楽しいんだ!その楽しみまで奪うというのか?」
でも、その先には恋人になってくれという要求があるんでしょ?
それには絶対に答えられない。
ちゃんと言わなきゃ!!
「忠平様、私が好きになる人は決まってるんです。いつもそばにいてくれる人、長く一緒に過ごした人、そういう人じゃないと好きにならないんです。」
忠平様はジッと固まって険しい顔つきで考え込んだ。
しばらくしてハッと顔を上げ
「じゃあ、今からはできるだけずっと伊予のそばにいることにする!それなら私にも機会があるってことだな!」
ニッコリ微笑んだ。
あまりにも素直に真っ直ぐに答えを出すので
『えぇ???!!!』
面食らってると
「よしっ!手始めに今日はこれから市に一緒に行こう!車を準備してくる!!」
ビックリして
「えぇっ!これから?!」
嬉しそうにウンと頷き
「そう!」
まさかね~~~と思いつつ
「侍従の恰好をしてもいい?でなければ行かないわ!動きづらいもの。」
少し目を丸くしたけど
「もちろん!伊予なら男でも侍従でも何でも構わないよ!」
・・・どこかで聞いたことのある言葉?
というわけで水干・括り袴を着て、角髪を結った少年風侍従姿で忠平様と市へ出かけることになった。
忠平様と二人で牛車に乗り、市までの道のりを揺られてると
「そういえば、帰京してすぐ上皇に召されて聞いた話では、京では『あやかしのひしお』という食べると楽しくなる醤が出回ってるらしい。
中毒的に買い求めるものが続出していると。
上皇はそれに毒が含まれていないか、人々が健康被害を受けてないかを気に病んでいらした。
今頃兄上が調べてるかもしれないな。
何せ東市には醤の店が五十一軒、西市には未醤の店が三十二軒もあるらしいから大変だなぁ。」
兄さまが市にいるかもしれないの?
会いたくないなぁ~~~。
忠平様と一緒にいるのを見られたらますます嫌われるかも。
私が表情を曇らせたのを見逃さず
「何だ?兄上ともめてるのかっ?!いきなり機会到来だな!」
面白そうにニヤニヤしながら揶揄った。
そうこうしているうちに牛車が止まり
「四郎様、東市に到着しました」
牛飼童の声がした。
(その4へつづく)