EP198:伊予の事件簿「妖かしの醤(あやかしのひしお)」 その1
【あらすじ:巷で流行りの幻覚作用のある醤は大人気だけど問題あり。少量ずつなら大丈夫でも、物も人も中毒になるほど好きになるならやっぱり要注意!私は今日も魅力と毒を使い分ける!】
今は、899年、時の帝は醍醐天皇。
私・浄見と『兄さま』こと大納言・藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。
私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。
何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。
五月だというのに冷気を含んだ、朝焼けの空を見ながら、兄さまの内裏への出仕の支度を整えていた。
「朝餉はいらない。」
簪で髷に冠を固定しながら
「は~~い。私は明日、宮中に戻るわね。ハイ!できた!」
ちゃんと着付けができたことに満足する。
う~~ん、大丈夫・・・・よね?
年子様を呼んで確認してもらう?
兄さまの衣冠(貴族や官人の宮中での勤務服)姿をぐるりと一周して検査する。
やったーーーっ!多分大丈夫っ!!
ちゃんとできたーーーっ!
ウキウキして『いってらっしゃーーい!』と声に出そうとしたとき
「浄見、あの夜、なぜ影男に抱きしめられてたんだ?」
兄さまが低い声で呟いた。
えっ??!
動揺して
「えっとぉ・・・その・・・・」
忘れてなかったのね。
聞かれなかったから見逃してくれたと思ったのに。
言い澱んでいると
「もう分別のあるフリはやめると言っただろ?ちゃんと嫉妬するし、責めることにした。」
ムッとした顔で睨み付ける。
『優しい兄』は終わりってそーゆー意味だったの?!
でも、一応こっちにもちゃんとした弁解はある!
強気を奮い起こして睨み返す
「誰かさんの恋人が二十人は超えてると影男さんが言うから、悔しくなって泣いてたのを慰めてくれたのっ!!」
兄さまは少し目を伏せ
「ふぅ~~ん。でも、そんなことわかってたことだろ?今更、他の男に泣きつく事か?」
自分の悪事?を棚に上げて、さも何でもない事のように吐き捨てるのでイラっとして
「私に気にするなと言うなら、兄さまも気にしなければいいでしょっっ!
それに影男さんとは、兄さまたちがしてるようなイヤらしいことは一切してませんっっ!」
怒気を含んだ強めの口調で言い返した。
瞼に痙攣が走り
「変な噂を竹丸から聞いたんだがな。
虹が出た日、東市で侍従の恰好の女性が舎人姿の男に口づけしてたのを竹丸の従者仲間が見たというんだ。
侍従の恰好をした女性がそう何人もいると思うか?」
はっ?!!
見られてたのっっ??!!
言い逃れできないっ!!
絶体絶命のピーーーンチッ!!!
(その2へつづく)