EP196:伊予の事件簿「決裂の偶像(けつれつのぐうぞう)」 その10
数日後、勅令がでて、大神己生の屋敷に匿われている、渤海国皇子・大封﨏が検非違使によって逮捕された。
取り調べを受けた後、渤海国に送還されるとのこと。
大封﨏は母国で兄の皇太子を暗殺しようとした罪で逃亡し、貿易船に乗りわが国へ密入国した。
大神己生は協力者たちの一人だった。
兄さまは彼らの挨拶が皇族への作法だと気づき大封﨏について調べたらしい。
協力者のうち大神己生の屋敷の使用人を取り調べ、飴と鞭を使って大封﨏の身元を白状させた。
兄さまは
「大封﨏は彼らの憧憬の対象だった。
だがその敬意のせいで私に身元を明かしてしまった。
憧れの対象である偶像は
いつか壊れるべきなのかもしれない。」
私の頬に触れ、見つめながら呟いた。
渤海国の人々の理想の皇子像
私の中の理想の恋人像
兄さまの中の理想の恋人像
理想を形づくる偶像は行動の原動力になるのかもしれないけど
独りよがりの思い込みかもしれない。
過去の恋人への嫉妬をやめられないけれど
手放した愛情を補って余りある
新たな愛すべき一面が見つかるかもしれない。
ひび割れた偶像のそのままで
慈しむことができるかもしれない。
『優しい兄』をやめた時平様は
私にとって
もっと、ずっと
愛おしい、大切な人になった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
イスラム教ほど徹底して偶像崇拝禁止をすれば、幾何学や化学が発達するというのも、示唆に富んでますよね!