EP191:伊予の事件簿「決裂の偶像(けつれつのぐうぞう)」 その5
ホッと安心した後、モヤモヤを思い出し
「そういえば、有馬さんと恋人関係だったんでしょ?今度は桜なの?同時に付き合ってるの?」
暗くても目が慣れて、影男さんの表情はちゃんと見えたけど、つまらなそうな無表情だった。
「女なら誰とでも付き合うと思ってるんですか?」
ビックリして
「違うの?だって、桜と付き合ってるんでしょ?」
プイっと横を向き
「大納言じゃないんだから、誰でもいいわけじゃない。」
兄さまを悪く言われた気がしてムッとして
「兄さまはそんな人じゃありません!それに今は私だけです!・・・・恋人は多分。」
ちょっと自信ないけど。
それにっ!と思い出して
「影男さんこそ、私に『そんな気がおきた』って別に好きとかじゃなかったのね!せいぜい女性としてみることができるぐらいの意味だったんでしょ?じゃあ別に身辺警護辞めるとか言わなくていいし、関係ないでしょっ!大げさなんだからっ!」
冗談っぽく責めてみた。
キッと真剣な目で私を睨みつけ
「そう思いたいなら、思えばいい。」
何ソレっ!?
意味不明だしっ!
「べ、別に、影男さんが誰と付き合おうが興味ないですっ!ちゃんと身辺警護さえしてくれればっ!」
影男さんが面白そうに目を細め、口の端で少し笑い
「ですよね?私が誰と付き合おうが気にならないハズですよね?大納言一筋なんですから。」
何か嫌味な言い方!
「ええそうです!兄さま以外の男性は誰と何をしようがどーでもいいんですっ!」
ツバを飛ばす。
皮肉気に笑い
「その大納言は今頃どこで誰と過ごしてるんでしょうね?伊予殿の知らない新しい恋人のところかもしれませんね?それともやっぱり未だに愛し続けているご正室のところかな?それとも古い恋人のところかも?昔から色男で鳴らしたお方ですし、何しろ数が多いですからねぇ。耳にしただけでも二十は超えてるんじゃないですか?」
嫌味だって頭でわかってたけど胸がズキズキ痛んだ。
必死で何か言い返そうとしたけど、兄さまが他の女性を抱きしめてるところや、口づけしてるところを想像して息が苦しくなった。
下唇を噛んで我慢しようとしてたのに、涙がボロボロこぼれた。
うつむいてボトボト廊下に涙をこぼしていると
目の前に誰かの胸が近づいた。
躊躇いがちに私の肩に触れ、背中をポンポンと軽くたたいた。
「っうっ気安く触らないでよぉっ!」
しゃくりあげながら涙を手で拭い、うつむいたまま言い放った。
ゆっくりと胸に頭を引き寄せられた。
ポンポンと背中を叩き続ける。
その胸と手の温もりに安心と優しさを感じ思わず頬を押し当てた。
「・・・ふぇ~~~~ん。っうくっうっ・・・」
涙と鼻水で影男さんの胸がぐっしょりと濡れていった。
突然
「誰だそこにいるのはっ!?
・・・・そこで何をしてるっ!」
後ろから鋭い、硬く、低い声が聞こえた。
(その6へつづく)