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Ep19: 番外編 浄見(きよみ)六歳

<Ep19: 番外編 浄見(きよみ)六歳>

浄見がまだ六歳で宇多天皇の別宅に乳母と数人の下人で住んでいるころ、

時平は暇を見つけてはこの屋敷に通って浄見の相手をしていた。

浄見のこのころの流行りの遊びは、山や河原へ行って、きれいな石や貝殻を集める事だった。

帝は時平の

「浄見を一生この屋敷内だけで育てるのはあまりにもかわいそうです」

という頑なな訴えに根負けして、近くの河原や裏山へ行くことを許していた。

浄見は裏山や河原から白くて丸いつやつやした石や巻貝の貝殻を拾っては、

帝から贈られた蒔絵螺鈿(まきえらでん)の手箱にしまっていた。

時平はそれを見て

『この贅沢な箱も自分がこんなガラクタ入れにされるとは予想外だろうな』

と思った。

浄見は時平に習字のお手本をせがんでそれもその宝箱にしまっていた。

その他にも時平と摘んだ花の枯れたのや、時平からの手紙も大事にしまっていた。

時平は浄見と河原に行っては貝や魚の名前を教えていたが、カワシンジュガイが見つかった時は

「あの蒔絵螺鈿の箱はこれを材料に使ってるんだよ」

というと浄見は

「このキラキラしたところね?きれいだわ!」

と感動した。

ある夏の夜、河原に蛍が舞っているのを二人で見て

「兄さま!捕って持って帰りたいわ!」

というので時平が手で包んで持って帰ったが、帰り着くと死んでしまっていたので、

それも宝箱にいれられた。

でもやっぱり死んでしまった虫はあまり気持ちがよくなかったのか、次の日になると

「兄さま、もう一度河原にいきたいわ!この子のお墓を作るの」

というので、時平が

「庭にお墓をつくればいいじゃないか?」

というと

「お庭にはお友達がいないもの。可哀想だわ」

と言った。

時平は友達が欲しい年ごろなのにと浄見を憐れに思うと同時に、

自分にできることは何でもしてやりたいと思った。

浄見はよく時平の膝にのって物語の巻子本(かんすぼん)を見せて

「兄さま!今日はこの物語を読んで下さいな」

といった。時平が

「竹取物語だね。」

と言って読み始めるがいつも途中で頭を時平の胸に預けて寝てしまった。

時平は寝入ったのを見計らって膝から降ろして畳に寝かせた。


浄見がある日

「兄さまないしょ話があるからお耳をかして」

というので時平が耳を近づけると、チュッと音がして浄見の唇が時平の頬に触れた。

時平はねばねばした感触を頬に感じたので

「さっき甘葛(あまづら)を食べたね。浄見。私の頬で口を拭かないでくれる?」

と言った。

浄見はへへへと笑った。

このころ時平は家に帰って着替えると(ふところ)や袖から葉っぱや石ころや花や貝殻がごろごろでてきた。

浄見と遊んでるうちに勝手に入ったのだろうと思っていた。

 浄見が時平の頬をねらって「口を拭く」遊びが流行って、時平も普段はおとなしくされるがままだったが、

3回に1回は浄見の口が近づくのを見計らって

「わっ!」

と言って正面を向くと、驚いた浄見が

「きゃはははっ!」

と笑い転げるのがお決まりの遊びだった。

ある日正面を向いた時平の口に浄見の口がぶつかりそうになって、

浄見が真っ赤になったので、時平が

「熱があるのかな」

といっておでこを合わせて

「熱いかもしれないから今日は寝なさい」

と寝かしつけた後、二度と浄見はこの遊びをしなくなった。


17歳の浄見に時平がこの話をすると浄見は

「兄さまを独り占めしようと思って、印をつけてたの」

とさらっと言った。

時平が驚いて

「6歳の子が?あの石とか貝殻とか花もわざといれてたの?」

と聞くと、浄見は

「私の持ち物を入れておけば兄さまは私を忘れないし、他の人も私に気づくでしょ?」

というので、時平が

「女の子は怖いなぁ・・・」

とポツリと言った。


浄見は昔のように時平の膝に乗って、時平の頬に触り、

「私、小さいころから兄さまの頬が大好きだったのよ」

と言って、耳の下から顎の骨を指でなぞった。

「くっきりとしてて、張りがあって、つやつやしてて、口づけしたくなったの」

と浄見が言うと、時平は浄見の手を摑まえて

「今も?」

と聞いた。

浄見が頷くと、時平は浄見のあごをつまんで引き寄せ口づけた。

唇が離れると

「でも兄さまはあの後すぐに会いに来なくなったから、後悔したの」

と浄見が言うと、時平は

「何を?」

と聞いた。

「私が甘えすぎて兄さまの重荷になったと思ったの」

時平は

『浄見を自分のものにしたくなったのが怖くなった』

とはいえず黙りこんだ。

黙り込んだ時平を浄見は勘違いして、あわてて膝から飛び降りようとして

「ごめんなさい!重かったでしょ!これからはこんなことしないから・・・」

と言いかけると、時平は浄見を抱きしめて

「いいから。私から逃げないでくれ。やっと手に入れたのに」

と言った。

浄見は昔から時平の胸にだかれると、すべての不安や恐怖から逃れられ、

自分は守られているという安心感で眠くなった。

浄見がおとなしくなったのを感じた時平は

『抱きしめる度に腕の中で眠られると、それはそれで男としてどうなのかな?』

と思った。

それでも昔のように浄見が眠ったのを見計らって、畳におろした。

無邪気な寝顔を見ながら、この先もこんな日々が続けばいいのにと思った。


<2023.2.27>

子供の頃はこんな感じでした。

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