EP189:伊予の事件簿「決裂の偶像(けつれつのぐうぞう)」 その3
凹んでるとそれを見た兄さまがフッと笑って
「別のを大納言邸から持ってくるといいよ。今度は本物の越州窯青磁にすればいい。銘柄好きの女房の間で自慢できるだろ?」
「う~~~ん。自慢できるより一目で好きになって愛着が持てるものの方がいいの。今度もそうするわ!」
微笑みながら
「浄見らしいな。そーゆーところが・・・・」
言いかけて黙り込んだ。
ん?何?
歯痒くなって
「何?気になるでしょっ!そーゆーところが何なの?!」
ジッと見つめる。
兄さまは『さて』と立ち上がり出ていこうとするので、私も急いで立ち上がって背中に近づいた。
クルリと振り返ると
スッと手が頬に伸び、ほっぺを摘ままれた。
「昔から変わってない・・なところ」
「だから何っ?!!」
モヤッとしたけどそれ以上は何も言わず立ち去った。
・・・多分『好きなところ』とか、『魅力的なところ』とかね。きっと。それ以外にはないものね!!
『貧乏性』とか『見る目がない』とかじゃないわよね?!!
少しして同僚の桜が、椛更衣と桐壺から帰ってきた。
桜は目がクリっとして丸顔のしっかりもので歳は十九ぐらい。
噂好きで流行好きな色っぽい体つきの子。
その日の夜、女房の仕事が一通り片付いて桜と雑談してると恋人の兵部卿宮の話になった。
桜が毛先を摘まんでもう片方の指でクルクルと回しながら
「宮がねぇ、最近『白楽天(白居易)の白氏文集?』の全七十五巻?をあるルートで手に入れたと言ってたのね、でもぉ、私はホラ、漢詩なんて興味ないでしょ?テキトーに聞き流してたんだけどぉ、で、大納言様に写本をお譲りするというお話になったらしくてぇ、でも大納言様は白氏何とかじゃなくて、その友達の元しん?(元稹)とか言う人が書いた『鶯鶯伝』の方をお求めになったらしいのねぇ・・・・白氏何とかは、仁明天皇?に献上した人がぁ褒賞として従五位上に叙せられたぐらい凄いモノでしょ?なのにぃ大納言様はちょっとマイナーなやつがいいって仰ったんで、驚いたって宮が言ってたのぉ!」
区切りなくダラダラと話し続けられるのが女子あるある。
でもそんなに多くの唐物の書籍を入手って?!
「へぇ~~~!凄いわねぇ!その二つ以外にもまだあるの?唐物の書籍が?」
桜は少し思い出そうとし
「ええと、覚えてないけどその他にもまだたくさんあるらしいわ!唐の国から貿易船が来たときに買い付けたのかしら?『唐物使(天皇のために購入する品物を確保し都に輸送する役人)』よりも早く入手できるワケないからどうやって入手したのかしらね?」
不思議がった。
忠平様もそんな感じのことしてた気もするけど。
見つかったらヤバいやつ?
深入りしないでおこう。
そんな感じでダラダラと桜の房でしゃべり続けてたら、几帳の向こう側から
「桜、入ってもいいか?」
すこし掠れた聞き覚えのある男性の声がした。
桜が少し私を気にしながらソワソワして
「どうぞ、伊予には帰ってもらうから、入っていいわよ!
影男さん!」
はっ??
何っっ?!
誰っっ!!?ですって!!
(その4へつづく)