表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
186/505

EP186:伊予の事件簿「疆界の三稜鏡(きょうかいのさんりょうきょう)」 その8

兄さまの真似をして舌に舌を絡め、夢中にさせようと必死に。

欲求を煽り立てようとした。


腰を強く抱き寄せられ身体を押し付けられた。


頭が痺れ、呼吸を忘れ息苦しくなって喘ぎながら唇を離す。


「騙した罰よ」

唇を指でなぞった。


上気した顔で

「褒美の間違いだろ?」

もう一度口づけようとする唇に手を当てて押しとどめた。


忠平(ただひら)様から兄さまへの贈り物をここで受け取る約束なの。」


ガッカリした顔で口づけを諦め

「あぁ、それならさっき四郎の従者から受け取った。伊予殿とご一緒ですかと言われて。たまたまここへ来ただけなんだが。」


えぇ!

何ソレーーーー!

私関係ないじゃんっ!ここまで呼び出しておいてっ!

でも気になったので

「結局なんだったの?みんなが欲しがる役に立つものって?狙ってた連中は誰だったの?」


兄さまはまだギラギラした目つきのまま上の空で

「あぁ、あれは『玻璃(はり)(ガラス)の製法』だ。

わが国では二百年ほど前から玻璃(はり)は作られていない。

玻璃(はり)珪砂(けいさ)、植物灰、石灰、を高温で熱して融解することで作られるが、(たきぎ)を大量に消費するのは陶器と同じで、わが国では陶器を優先させたため玻璃(はり)製造は衰退した。

得られる玻璃(はり)の量が少ないことも衰退した原因の一つだが、植物灰を海藻灰(オカヒジキに近い耐塩性の陸生植物)に換えることで量が増えかつ珪砂(けいさ)の融解温度が下がり加工が容易になるという方法が発見され、四郎がその製法を記した書物を手に入れ私にも写本を一部分けてくれたんだ。」


ふ~~~ん。

「じゃあ私をつけてきたそれを狙う連中って陶器製造とか販売とかの関係者?」


ウンと頷き

「別に隠そうとしてるわけじゃない。陶器製造の工人たちには条件を同じにするために写本の数がそろったら一斉に渡すつもりだ。不平等な競争にならないように。」


なるほどーーー!

感心して納得。


忠平(ただひら)様は帰京してないの?」


兄さまは肩をすくめ

「多分ね。でもあいつがいつまで備後で暮らせるやら。」


私は(たもと)から三稜鏡(さんりょうきょう)を取り出して兄さまに見せた。

「これをもらったの。水晶でできてるらしいけど、玻璃(はり)でも透明度が高いものを作れば三稜鏡(さんりょうきょう)を作れるでしょ?」


驚いて手にとり『へぇ!』と感心しながら

「理論的にはね。でも、そこまでの技術はないだろうなぁ。」


すっかり日が沈んで辺りは薄暗くなっていた。

帰り道、兄さまと手をつなぎ歩いていると、昼間の紋白蝶(モンシロチョウ)や虹を思い出した。

死後の世界、輪廻、現前した幽世(かくりよ)の気配。


「植物は燃えると、灰になって、玻璃(はり)の材料になって、三稜鏡(さんりょうきょう)を作るでしょ?

虫は餌として野菜や木を食べて、(ふん)として土を作ってくれるし、死ねば餌を作る。

人間は死ぬと何を作るの?」


「そうだな、人は・・・

人は、水晶から三稜鏡(さんりょうきょう)を作り、虹を作る。

種をまき、穀物を作る。

愛する人と過ごす、幸せな瞬間を作る。


・・・ただし、すべて生きている間にね。」


呟きながら、私の手をギュッと握りしめた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

常世(とこよ)はあの世、幽世(かくりよ)、つまり死後の世界のことですけど、常識、常時、常々、の印象からてっきり現世、この世、俗世だと勘違いしてしまいますよね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ