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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
184/505

EP184:伊予の事件簿「疆界の三稜鏡(きょうかいのさんりょうきょう)」 その6

唇が唇に触れそうになると影男(かげお)さんの肩に力が入り硬くなった気がした。

ゴクッと息をのむ音がする。


ふふんっ!

口づけは口づけでしょ?!


唇で軽く頬に触れ、すぐに離した。


「これでいいんでしょ?約束よ!身辺警護(ボディガード)を辞めないでねっ!」


ハッとしたように目を開き、黒目の大きい焦った表情で

「・・・・確かに。唇にとは言ってませんでしたね。まあいいでしょう。」


「でも、今日はもう宮中に帰って頸の傷を手当てしましょ!さぁ!」


促すと影男(かげお)さんは押さえていた手巾を頸からはなして傷を触り

「大丈夫。もう血は止まりました。一人で手当てに戻ります。伊予殿は西市で上皇侍従の贈り物を探してください。手当てが終わり次第迎えに来ます。」


「そう?それはいい考えね!じゃあそういう事で!」


手をヒラヒラさせてその場で別れ、西市に向かった。

我ながらうまくいったなぁと思いながら鼻歌まじりに軽い足取りで歩く。


ふと思い当たってゾッとして

『もし、さっきのを誰かに見られてたら、絶ーーーー対誤解されてるっ!』

兄さまの耳に入ったら・・・・

浮気確定っ!!

嫌われるかしら?

でも一応『他の男性と遊んでもいい』とか言ってた気がするし、引き留めるために仕方なくしたことだし、理由はあるよね。

急に他の人に交代されたらこっちだって困るし!

影男(かげお)さんのこと割と好きだし。

男性とかそういう意味じゃなく、信頼できる人という意味でね。

口づけしてまで引き留めた理由が自分でもイマイチ納得できなかったので、やましいのは確か。


う~~~ん、できるだけバレないようにするしかないかぁ。

・・・・ますます浮気してる気分。


そうこうしているうちに西市についた。

昼過ぎに内裏を出てかれこれ二刻(4時間)ぐらいたつので辺りは夕焼け色に染まっていた。

夕焼けに混じって薄曇りの空から細かい霧のような雨が降ってきた。

濡れても平気なぐらい細かい雨だったのでそのまま西市をウロウロする。


ほどなくして雨が上がった。

市場といってもほとんどの店は片付けられ、広い野原と路があるだけの場所になってた。


ここのどこに忠平(ただひら)様の贈り物があるんだろう?

見当もつかないなぁ。

やっぱり影男(かげお)さんが来るのを待つしかないのかなぁ。

途方に暮れて大きい石にでも座って疲れた足を休めようかと、ふと東の方向の野原を見た。

短い草がまばらに生え、まばらな店や遠くには貴族のお屋敷の屋根と築地塀(ついじべい)(泥土をつき固めて作った塀)が見える。

そこに大きい半円を描く細い帯状の、紫から赤へ微かに色が移り変わる『虹』が現れた。

不思議なことに重なった背景が透けて見える。


わぁーーーーーキレイっ!

神秘的っ!

幸運(ラッキー)っっ!!

初めて見たわけじゃなかったけど、何度も見たわけでもなかったので、すっかりテンションが上がった。


曲がった橋のように半円全部が見えてたのに、わずかな時間でだんだんと薄くなった。

地面に近い部分だけを残して消えかかってきた。


今この瞬間!ここが他界と俗界の境界になってるのねっ!

そう考えても不思議じゃないくらい神秘的っ!

立ったまま消えかかってゆく虹をボンヤリ見つめていた。


ザッザッザッ!


草を踏み分け虹の向こう側から狩衣姿の男性が歩いてきた。


表(上側)は黄色、裏(下側)は緑の菜の花色(ほんとうは『山吹』というらしいです)。

袴は萌黄色で背筋がピンと伸び、軽やかな足取りはまるで菜の花の精霊のよう。


消えかかった他界との境界から、一刻も早くこの世へ抜け出そうと早足になっているように見えた。


顔が見える距離まで近づいた時点でその正体に気づいた私は少し大きな声で話しかけた。


「やっぱり帰ってきてたのね?備後からっ!」

(その7へつづく)

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